DESIGNWORKS Vol.11
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Interview松村秀一氏に聞く情報技術の進展がもたらす建築の変化今回は「環境技術と情報技術」をテーマに作品を掲載しています。インタビューに先立ち、「竹中技術研究所・耐火実験棟」を視察していただきました。この建物は国内最高能力の耐火実験装置を備えつつ、環境技術を実験的に取り入れた作品です。また、BIM※1を積極的に採用して詳細設計段階から3Dモデルを作成し、施工段階までその情報を有効活用しています。このような建築生産のプロセスの変化についてどのようにお感じになりましたか。情報技術の可能性松村 通常実験施設というと倉庫のような建物を想像してしまいますが、実験施設とは思えない設計者の思い入れが感じられます。外装を白で統一し、壁面緑化、ミスト噴霧、超高強度コンクリートの化粧柱など、盛りだくさんの内容で、大変意欲的だと思いました。̶̶̶立地が敷地の端部だったこともあり、周辺にCI※2発信できる施設としてデザインする必然性がありました。「機能フレーム」と呼んでいるフレームを外壁の外側に取り付けることで、意匠性や環境装置をデザインできるステージを用意するとともに、無足場での施工を可能にして効率化を図りました。施工性の検証にもBIMを最大限利用しています。松村 BIMを活用しつつ、企業のアイコンとなる建築の実験を行ったわけですね。BIMが建築生産の流れの中で大きな転換の要因となっているのは確かだと思います。例えば航空機をつくるのにCAD+CAM※3の技術ができれが情報化によって解き放たれていくとすれば建築生産の現場がどう変わるか。品質やリスクは誰が取るのか。従来の確固とした政治的構造と、情報化の進展というのは必ずしもリンクしないのが建設業の特質といえるかもしれません。消費者と製造業者が直接結びつく商売だとそこに第三者的な判断が入らない。だから情報から欲しいものをダイレクトに作ることができるということになります。しかし建築の場合はそこに強いバリアが存在している。そのような政治的問題をどう整理するか。この問題を解決しない限り情報化の流れが進んでも、それが生かせるのは技術面だけで、根本的に建築を変える、建築の可能性を広げる方向には進まない可能性があります。一方で国内の建設市場が縮小していくなかで、例えば中国やインドに出て行くということになると、その仕組みを丸ごと輸出することが出来ないので現地調達になってくる。そこでは日本国内にあるような信頼に基づく政治的構造はない。そうなったときどうするかは我々が現実的に直面している問題ではないでしょうか。建築と建築の関係性がつくり出す風景̶̶̶今回はオフィスや研究所作品を中心に掲載しています。「日産自動車株式会社グローバル本社」についてはどのような印象を持たれましたか。松村 以前は横浜駅からMM21地区に抜けていく道があるということを僕は知らなかったのですが、一企業のビルの中を通って、下をのぞくと車が見える。通路の少し脇にはオーて、3次曲面はどんな形でも解析できるようになった。建築もその流れに乗ってどんどん形態が多様になってきています。しかしそれが良い方向に変わるかどうかは使う人次第というところがあり、その意味でBIMは諸刃の剣と言えそうです。例えば木造建築におけるプレカットを例に取ると、昔は大工が少なくとも20種類ぐらいの継手・仕口を作っていました。ところがプレカットというCAD+CAMで動く機械が出てくると継手・仕口の数が2~3種類になってしまいます。その生産ラインに乗らないものはダメだということになってしまうのです。つまり情報化によって多様なかたちへの対応ができる可能性がある一方で、それを運用していく社会自体がパターン化しいていく方向に進み、結局その情報を処理する技術の可能性を十分に使えないまま技術が消費されていくという危険性があります。̶̶̶カスタムメイドで一つ一つプロダクトをつくっていくつもりが、いつの間にかありふれたものになってしまう。松村 そうですね。しかも建築は非常に統合度の高いものなので、個々に分解していくと建築生産の主体はエンドユーザーと直接関わることが少ない。それを統合しているのが設計者とゼネコンなのですが、建築生産の現場はそのような専門家どうしの暗黙の了解による閉じられた世界を形成しています。これは一種の政治的構造と言えるかもしれません。利用者が勝手にカスタマイズできないことで品質保証が担保されている面があります。しかしそ竹中 技術研究所・耐火実験棟耐火実験棟3Dモデルによる施工シミュレーション写真:小川泰祐02Interview

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