プロジェクト・ストーリー

PROJECT2 大極殿 DAIGOKUDEN

時空を超えていく

平城京・大極殿。奈良時代、都の最も重要な建物として、天皇の即位や海外使節との謁見などに用いられていた巨大建築物だ。天平文化の粋が集められたこの建物を、現代に復原させるプロジェクトが始動したのは2001年の夏。それから8年8カ月をかけ、往時の姿をそのままに、大極殿は21世紀の日本によみがえった。その道のりは、伝統の技術と文化を途絶えさせることなく、未来へと受け継いでいこうという竹中工務店の挑戦の道のりでもあった。

  • 1300年前の姿を忠実によみがえらせ、現代の最新技術と融合させる

    江戸時代にまでさかのぼるとされる、平城京の調査の歴史。長年にわたる調査・研究の成果を文字通りかたちにするため、大極殿をよみがえらせる。2010年に平城京遷都1300年という節目の年を迎えるにあたり、そのシンボリックな存在として国家レベルでプロジェクトは立ち上げられた。

    プロジェクトの第1のミッションは、奈良時代の姿を忠実に復原すること。間口9間(約16.2m)、奥行4間(約7.2m)、高さ約27m、二重入母屋造本瓦葺となるこの建物は、国内最大級の純木造建築となる。材料、施工方法、架構形式も当時のままだ。木材表面は槍鉋で加工され、丹土塗りの仕上げが採用された。

    同時に、プロジェクトはもう1つの大きなミッションを持っていた。現在の建築基準法に適合しつつ、次の100年あるいは1000年へと伝えていかなければならない。

    調査研究成果の具現化のために伝統工法で施工する部分に最新技術を融合させることが必要となった。そこで大極殿では、建物の土台部分にある基壇に着目。基壇内部に免震装置を組み込み、基壇躯体には500年コンクリートと呼ばれる超高耐久コンクリートが用いられた。

    これにより、建築当時の姿をそのままに、見えない部分に最新技術を詰め込んだ、未来へと受け継ぐ大極殿が誕生したのだ。

  • 経験値を客観的データへ。品質を作り込む情熱が伝統技術を未来へつなぐ

    復原にあたっては、寺社建築を専門とする大工や左官などの職人が全国から結集した。彼らの心を1つにし、品質管理を行いながら竣工まで導くのが竹中工務店の役割だ。担当となったのは建築施工の宮本宗樹。伝統建築に携わるのは初めてだったが、「品質の作り込み」に対する情熱を胸に、さまざまな取り組みを進めていった。

    例えば構造材である木材の管理。“生き物”でもある木材は、加工後も呼吸し、水分を取り込んでいく。保管状況によってはひび割れが起こり、あるいは木組みをした後に建物のゆがみの原因ともなりかねない。1本1本性質の異なる木材をどのように保管するかは、これまで、熟練職人の経験に頼っていた。そこで宮本は、保管室の温度や湿度、そしてデータとして収集していった。そのデータをもとに専門家の助言をもらうことで、客観的な判断をするための一つの基準を割り出していったのだ。

    また壁に塗る漆喰も同様に、経験値のデータ化に取り組んだ。漆喰壁の仕上げ作業は、1日の作業の中で乾き具合を見計らいながら、何回も塗り重ねることが必要となる。塗り重ねの際の塗り厚が大きすぎたり小さすぎたりすると、塗り重ねができなくなったり、ひびわれをおこす原因となる。そこで、各層の塗り作業時の漆喰使用重量を計測し、仕上がり表面の状態との相関を調べ、仕上げに適した塗りパターンを客観的に把握した。こうしたデータを積み重ね、職人自身にも自分の仕事を客観的に見てもらうことができた。こうした取り組みを経て、均一な漆喰壁を実現した。5m四方の巨大な壁を継ぎ目なく均一に塗るという難所も、満足いく仕上がりとなった。

    宮本たちが見つけ出していったデータは、将来の職人が技術を習得する際の指標にできるものだ。それはとりもなおさず、伝統技術の継承という、プロジェクトが目指したゴールの1つでもある。

  • "よい仕事"によって育てられた"よい人"たちが、次なるよい仕事へと羽ばたいていった

    竹中工務店には、「よい仕事がよい人を育て、よい人がよい仕事を生む」という考え方が受け継がれている。大極殿で宮本は、この言葉の正しさを目の当たりにする出来事を経験した。

    先にも触れた漆喰塗りは、1cmずつ、12~13回に分けて重ね塗りを行う。最初は技術が拙かった若手職人も、最終の塗りのころには腕を磨き、見事な塗りができるようになっていたのだ。8年8カ月という長い時間と、大極殿の復原というまたとない「よい仕事」が、職人を成長させたのだ。同じことがこの期間中、随所で起こっていた。もちろん宮本もその1人だ。全国から集まった腕利きの職人に囲まれる毎日のなかで、細部へのこだわりをそれまで以上に強めていった。そして、「棟梁精神」や「最良の作品を世に遺す」ことの大切さをより深く考えるようになった。

    2010年3月、大極殿は無事に竣工した。その後、建築に関わった人たちは次なるプロジェクトへと羽ばたいていった。宮本も現在、オフィスビルの建築施工を担当している。携わる仕事も場所も違う。しかしすべての人は、大極殿で学んだことを現在の仕事へ活かし、「よい仕事」をしているはずだ。そんな彼らの活躍を1000年後へと伝えるべく、大極殿は今日も静かに平城京にたたずんでいる。