DESIGNWORKS Vol.34
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本号は、吹田市立スタジアムを巻頭作品とし、病院や診療所、健康促進施設といった多岐にわたる「健康」を支える作品群を取り上げています。インタビューには、近作に横須賀市救急医療センター・横須賀市医師会館の設計を手掛け、2004年には北九州市のエンゼル病院の設計で医療福祉建築賞を受賞された、建築家の富永讓氏をお迎えしました。急速な高齢化や医療制度の変化の中で求められる建築の可能性について伺いました。身体性の原点に戻るスタジアム建築   今回現地を視察頂いた作品について、感想をお聞かせください。富永 まず吹田のスタジアムについてお話ししたいと思います。このスタジアムは僕が雑誌で見たときは見逃してそんなに注目していなかったんですけれども、現実に見に行ったらこれは素晴らしいと思いました。というのは、建築の初心というか、例えば4万人の人を収容して、いかにシンプルに臨場感のあるサッカーのスタジアムを作るかといった、原点から組み立てていく構築の面白さがあった。合理的だし、やったことが全部納得できます。実際に行ってみると劇場空間のようなコンパクトさで、選手たちが体をぶつけ合う音が聞こえてくるような、スタジアムとしての魅力が非常にあると感じましたね。   ローコストでコンパクトにつくるために、独特の構造体や施工方法が使われています。富永 架け渡すスパンを短くして、構造体の下に屋根を差し入れて室内が凝縮するように工夫した構造が良いですね。芝生を育てるために日陰をつくらぬよう低くし、南にはガラス屋根を使って、地面にぐるりと風の通るスリットを設けていたのも軽やかで造形的に効いていました。建築は基本的にはそういう問題を1つ1つ解決していく技術だと思うんですよね。そういった意味で、完成した吹田はある種のプロトタイプになるのではないかな。それから感じたことはスケールが良いということ。圧迫感がない。直線に形を限定し、規格化したPC※1を多用していますが、規格化が機械的な空間になってしまうというわけではなくて、おおむね良い建築というのはみんな規格化されたものです。パンテオン※2だって規格サイズです。そういう工業技術というものが正しく使われていると感じました。近代主義のビギニングス、最初の精神は技術が建築を民主化するということだったと思います。規格化を進めることによって皆にいい住居を供給しようとか、そういった社会にとって健全な精神が残っている建物です。初心というものはやはり建築にとっては大事なことだと思います。   仕上の素材も最小限でシンプルな内観、外観になっていました。富永 やはりスポーツを見る建物って、スポーツのいろんなしぐさが浮かび上がってくるものであって、建物の仕上を見せるものではない。チェッカープレートの溶接でつくった大階段がありましたが、最も安価な方法で工夫して考えていて、メンテナンスもしやすい。階段の裏側の構造が現しになっているのも決して悪くないと思いました。昔のローマとかギリシャのスポーツの施設ってそんなに装飾的ではなくてシンプルで、原理的ですよね。本来的にはそういうものじゃないかなと思います。スポーツの精神というのは、人間の身体能力の可能性と輝きをみんなが集まって称賛するということが目的であって、〈おもてなし〉とか〈癒し〉とは対極にあると思うんです。商業的なものや粉飾したものはスポーツの精神とは無縁の事柄。近年話題になったスポーツ施設などを見ていると、近代建築というものが100年位経って色々なほこりや夾雑物を沢山身に着けてしまったように感じます。   吹田スタジアムは寄付によって集められた資金で建築されている稀な例でもあります。富永 資金が寄付によって賄われたということも、民主主義社会の公的な建築のかくあるべき姿だと思います。それだけに無駄がなくて、お金を節約しなくてはならないという切実な事情が贅肉のない建築に結びついている。コンパクトで、同じ試合を皆で見ている喜びがあると思います。これはほとんど一人の担当者がずっと建築設計をされたとの話ですが、巨大であるがゆえにあまり大勢の人の分業体制でつくらなかったことが良かったようにも感じました。統一感というのか、隅々に行き渡ってバランス感覚や材料の使い方が乱れていない。寄付をしているサポーターが出した意見を取り入れてプランを一部変更したという話もありましたが、オーナーや関係者が自分にとって本当に切実なことを主張してくれると、それについて設計する側が改めて考えるチャンスが増えることで建築が引き締まってよくなると思います。全体に、このスタジアムのように施工方法のことも含めて裏付けをとって、コストも調整して、という設計は竹中の得意分野なんだなと思いました。フリーのアーキテクトにはなかなかできないのかと思います。イメージはあってもおそらくこういう一体化した体制を持って技術と生産コストを扱う人が富永讓氏に聞くウエルネスを支える建築デザインInterview市立吹田サッカースタジアムKKC健康スクエアInterview02

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