DESIGNWORKS Vol.34
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   丸太町リハビリテーションクリニックは、予防医学の施設を医療法人が運営できるという新しい制度※3を利用した先端的な施設です。富永 フィットネスジムのような施設でリハビリテーションクリニックを兼ねているという、非常に特殊なものですね。予防医学的なものはこれからも大事になってくるでしょう。特に、データが病院に蓄積されるかかりつけ医のような役割は大事です。若い人は高度医療ができるからと大病院に行ったりしますが、人間も動物ですからその人の体の特性ををずっとみてくれる人がいることは重要です。また、デザインに関しては、どれも洗練されていますね。私自身は逆に、こういうきれいな病院より、ざっくりしたものを作りたい。肌触りのある自然素材で、人工の性能本位でなく、自然の煉瓦を使ったり、外部的な環境のロビーにしたり。洗練化ではない方、むしろプリミティブなものを、身体の自然に目覚めるような、ほっとするような環境を作ろうと思っています。日常性と自然環境の延長にある病院   先生が設計されたエンゼル病院※4では、患者さんが院内を歩いていく一秒一秒のシーンを楽しめるように計画したそうですね。富永 産婦人科のクリニックに限らず、基本的には光や通風といった自然がすごく大事だと思うんですよ。一時、効率的なハイテク治療機械のような病院があったんだけれども、それからだんだん進んできて今度は逆にホテル化したおもてなしの病院になっていますよね。機械かホテルかというすごく極端な道を歩みだしているような気がしますが、生活の日常性みたいなものをちゃんと継続して確保してあげるというのが大事だと思いますね。また、八幡厚生病院※5の時には、敷地の最も建設しにくい地形に建てることを選んだんですよ。精神病院って連れてこられるとその中に閉じ込められてびっくりしてしまうのですが、病室を出たらやっぱり町の街路のように道があって交差点があって、自分が生きてた日常の場所というものとの何らかのつながりを持ちたいと考えた。精神病の場合は特に治療環境は重要だと思っています。閉鎖的病棟の場合でも、外で雨が降っていることが感じられるだとか外に街の雰囲気があって、調子が良ければみんなで畑で芋をとってきて焼き芋にするとか。そういうことが活力になる。そうやって自然の中で生まれた自分の中のリズムを取り戻していくというようなことが治療になると、建築ときわめて関わってくる。都市のビルの人工環境の中で働いている人達が、大地での活動、プリミティブなことを忘れてしまって精神がおかしくなる。都市の病だと思います。自然とのつながりを持ちたいというのは病院以外の施設でも言えることだから、その意味で病院というのはそれほど特殊な建築物ではないんだと思いますね。精神病院では、ウィーンにシュタインホーフ※6という作品があります。聖堂が付属していて、広い敷地で、やはり良いだろうと思う。朝日が出て、沈んでという自然のリズムに接するというのは極めて大切です。以前京大で教えていていた計画学者で建築家の外山義※7さんは、北欧で建築を学んだ後に日本の病院や高齢者施設の様子を見て、環境の貧弱さに愕然として多くの施設を設計された方です。ヨーロッパの病院は、歴史的な伝統もあるでしょうが、患者を主体として考える傾向はあると思います。精神病院でも、大体平屋か二階建て位で、大地から離すことはあまりしない。北欧の施設が良いと言われますが、学ぶところは人間本位というところにあるんじゃないでしょうか。病院計画学から病院地理学へ富永 病院計画学で一つの問題だと思っているのは、計画学的に進めて行くと医療の建築が全部最短動線で機能性から四角い箱になっていく。でもそれは医療従事者の目線で造られていて、患者のことはあまり考えていないんですよね。私も経験があるんだけれども、病院は携っている関係者がいっぱいいて、打合せするのも大変です。そして、それが必ずしも一致しない。でも結局は病院を運営する側と医療従事者、そういう人と打合せしていると気付く。だから患者の立場というのは物言わぬ人で打合せはなく、利用する人の一人が完全に欠けてしまっている。それを代理するのは設計者しかいないということは自覚しなくちゃいけない。医療環境には一番調子の悪い時の患者が来るわけで、そういう時に来た環境というのは日本の場合は相当貧弱でしたよね。検査と言われてもいろんな検査があるし、サインを頼りに場所を探すわけだけどそういうことは病院に行く人にとってはすごくストレスになる。だから患者の立場になって環境を含めて考えることは重要だと思います。建築地理学※8という計画学の本を読むと、そういったことが書かれています。計画学というのは行動調査、つまり規範のプランが与えられた中での人間の動きを研究しているわけです。だから箱型で最少動線でという規範そのものを疑ってかかることはしていない。制度的なものは人間を抽象化して最低の基準を定めるものです。医療建築の計画学の最初の出発点は治療向上化であったわけですが、それがようやく一歩進んで見直されて、病院地理学という形で出てきたんじゃないでしょうか。八幡厚生病院新本館棟写真:浅田美浩エンゼル病院写真:浅田美浩Interview04

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