DESIGNWORKS Vol35
4/36

近年は間伐材※1の活用推進や木造の新たな技術革新を背景に在来の木造とは異なる新たな木質空間のあり方が模索されています。本号では、竹中工務店設計部の近作の中から、昨今注目されている木質系作品をとりあげ、都市と地域に新たな環境をつくり出す木質建築のありかたをテーマに特集しました。そこで都市型木造建築を専門とされる法政大学の網野禎昭教授をお招きし、都市・地域における自然素材としての木材の創造的活用なども視野に、都市と木質空間のこれからの関係性と可能性について、お話を伺いました。木材を使う目的   今回は、はじめての木質建築の特集です。竹中工務店の木質建築は、伝統建築をつくる一方、90年代には集成材を使った大規模ドームがあり、最近では燃エンウッド®※2のような新技術が用いられるようになりました。これらの時代背景や社会との関係を整理しながらこれからの木質建築を考えていけたらと思います。まずは、「水天宮御造替」(以下「水天宮」)と「新柏クリニック」をご覧いただいてのご感想をお聞かせください。網野 どちらも良い建物だと思います。水天宮の場合は伝統性を残し、木の使われ方もきれいで、来訪者視点から見て楽しい仕組みが随所に見受けられました。水天宮は神社というそもそものコンテクストからして木材利用の意図はわかりますが、新柏クリニックを見た時に、現代の都市での木の使い方や意義に若干の疑問を感じたことも事実です。木にはいろいろな性能がありますが、本日見させていただいた建築も含め、現代の建築で使おうとしている性能は2つに絞られると思います。それは、視覚的な効果と構造性能です。逆にいえば、それ以外の木の効果はあまり注目されていません。水天宮も新柏クリニックも木を美しく見せるため、意匠的に大変工夫されています。新柏クリニックでは燃エンウッド®を用いて、木の構造体としての使い方にも大いに挑戦されています。それでも木を使う意義が今一つわかりにくいとも感じました。海外と日本の木材への異なるアプローチ   網野先生は、スイスで木造の建物をいくつか設計されています。海外で学ばれ実際に働かれていたご経験から、木を使う必然性や、木材に対する日本と異なるアプローチや思いを感じられましたか。網野 ヨーロッパで木造の勉強を始めたのは1996年です。ユリウス・ナッテラー※3に師事するのですが、目から鱗でした。木造分野が水平的な広がりを持っていることを知ったのです。日本では集成材ドームの大きさ競争の時代でした。ところがナッテラーは徹底したブリコルール※4で、意図的に木造をローテクに持っていこうとするのです。本人はシンプルテックと言っていましたが、なるべく多くの人々が木造に参加できるようにとの発想なのです。日本では大スパン木造のエンジニアとして知られたナッテラーですが、その人に、私が社会の進歩として疑うことなかった工業化を真っ向から否定されたわけです。例えば、未加工の丸太を使い倒せと。彼の出身は南ドイツで何代も続くフォレスターの家系で、文明と森の歴史を肌で知っている人です。ですから森や木で食べている人たちのことをとても大切にするわけです。この人たちが食べられなくなったら山が死ぬ、そして文化が死ぬと。すべての地域がそうではないのですが、ヨーロッパでは木を使っていくことの背景に社会的な視点を強く感じました。持続的な世の中を作ろうとしている思いが強くでているのです。一方日本で木造の仕事をしていると、ほとんどのケースが木の構造であることにこだわり過ぎているように感じます。さらにその構造をあらわしにしないといけない。つまり、意匠性の高い木構造という視点です。木造といったとたんにそれは構造であって、架構としてどういう表現をするか。そこで木の議論が停滞しているようにも感じます。木を使うことが、社会的にどういう意義があるのか、木を使う人に対してどういう効果があるのかがあまり議論されていないのです。ヨーロッパにおける木造建築の主題はもはや構造ではなくなっています。構造を‘どうもたせるか’は技術的な各論であって、木造建築は未来の社会にどう貢献するのかが第一のテーマになっているように思います。環境、エネルギー供給、人間に対しての快適性であるとか、木を用いて人間の生存圏をどのように維持発展させてゆくかという総合的な議論がまずあって、意匠と構造はそのなかの各論に過ぎないのです。日本全体で見て、そういった議論はいつ根付くのでしょうか。木を使うとエコであるといいながらも、従来どおり化石燃料に頼りきりエアコンを回しています。なんだかおかしな、筋道の通らないことがたくさんあります。これが、私が現代日本の新しい木造に対して感じている違和感です。   2016年の日本では木造建築で大きな循環型社会をつくるといった議論にまだなっていません。網野禎昭氏に聞くこれからの木質建築Interview水天宮御造替写真:小川泰祐新柏クリニック資料提供:(株)エスエス東京支店 島尾望Interview02

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る