DESIGNWORKS Vol35
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網野 建築の話題性として木を使っている建物は多くあります。では本当にその建物のライフサイクルがどうなのだろかとか、それを建てることで、自然環境への好影響が期待できるのか、一体どういった人達に仕事が分配されていくのか、だれが幸せになるのかも考えるべきです。つまり、もう少し大きな枠組みのなかで議論を行っていく必要があります。 日本でそのような議論に至らない原因にはどういったことがあげられるでしょうか。網野 ひとつは、最近の国産材の利用促進が木材の使用数量を主たる目標にしてしまっている影響があるように思います。量をたくさん使えば良い、そのためには今迄木で作ってこなかったものも木で作ればよいという考えがあるようです。かつてのようには大量に住宅が建たなくなっている時代ならば、新しい産業や大きな建物を作り、それで賄いましょうというような風潮です。例えばCLT※5などもその一つなのでしょうか。しかし、それで日本の森や建築社会を支えてきた数多の人々は豊かになるのでしょうか。彼らの多くが生活する地方都市や中山間地域※6の経済は既に瀕死の状態です。そこを直視せずに木造の進化を考えたところで日本の未来はどうなるのでしょうか。日本の社会構造は複雑です。林産業も北米の大規模なものとは異なった構造を持っています。「都会に木造ビルをつくりましょう。新しい素材、新しい建物をつくれば、現在の問題が解決される。」というような単純なことを考えているとしたら、総合的な議論が生まれないはずです。自分たちの社会の問題点や、木造の取り組むべき課題を直視しない、かなり楽観的な話が聞こえてきます。木構造でない木質建築 今日の水天宮は日本の文化を表象しています。例えば社殿は中世からの引用し、内部には数寄屋ももちいられています。さらに数寄屋の方が日本の木の伝統文化として継承され、成熟している気もします。日本においては構造と非構造部分を切り分けながら話を進め、木を捉えるべきではないでしょうか。木質といったものは、どうも単純な木造ではなさそうです。網野 これは良いテーマだと思いました。水天宮は躯体をRCで全て作り、外装と内装を木でやっている。確かに木造ではありませんが、これでも良いのではないかと思います。我々は、木で構造をつくることにこだわりすぎているため、木材の使い方や工夫のバリエーションを失っている。ところが、水天宮はRC造ですが、木材活用の多様性という意味では、とても頑張っているように思えます。新柏クリニックはシンプルで個人的には好きな建物ですが、木材の使い方のバリエーションとしてはそんなに多くありません。近年、木造建築というカテゴリーが薄れてきています。そしてそうなっていかないと、広がりのない時代になってしまうように思っています。結局のところ、私たちは現代において木造で色々なものを作ってこなかったのです。木造を非常にせまい領域で考えてしまって、ある型のようなものをずっと作り続けてきたのです。木造建築こうあるべしの様なものを。しかし、それがいったん外れてみると、実はたくさんのことができるし、それを外さないと、木造で都市的なものをつくるのはほぼ無理です。燃エンウッド®は世界一厳しいとされる日本の耐火規制の枠のなかにある特殊性を持つ木造建築の既成概念のようなものに真っ向から挑んでいる技術だとは思っています。一方でRCの建物の中に非構造的に木材がふんだんに使われていたとしても、それはそれで魅力的な建物が作れると思います。木の使用量にこだわったとしても、骨組みで木材を使うよりも仕上で木材を使った方が数量も出るというメリットもあります。木質建築で育つ持続可能社会網野 私がやっている木造とみなさんがやっている木造は全然違うものです。目標もレベルも違います。私などは個人商店ですから、「木のカタマリに住む」といったようなローテクな小さなものしかできませんが、みなさんは日本の建築文化を引っ張る大きなプロジェクト、技術的に難易度の高いものをやっています。だからこそプラスアルファのものもやっていただけたらと思うのです。人間は、常に挑戦していかなければ、普段やってきたこともいつしかできなくなってしまいます。その挑戦のやり方によっては育てる人や社会の種類が変わってきます。水天宮のやり方は、いってみれば先端的な技術者と伝統技能者が共に取り組んだ、テクノロジーと手技の両方を感じさせる建物です。新柏クリニックのやり方だとどういった社会が育つかというと、装置産業※7的なものが育っていきます。木造には、川上の林業から川中の加工流通業を経て我々がいる川下まで、三段階のなかで様々な人が関わります。風が吹けば桶屋が儲かるの例えそのもので、我々の設計の仕方というものが、日本の建築生産や社会に大きな影響を与えます。そのあたりの議論が建物の設計に取り込まれると木造はもっと面白くなると感じています。木のカタマリに住む写真:網野禎昭Interview03
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