DESIGNWORKS Vol35
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それが先ほどお願いしたプラスアルファのことです。しかし現在は多くの場合、川下がなにかやると、川上がどうなるかというイメージを持たずに設計しています。木造の面白さとは我々が建物を一つ建てると、それで育つ社会があるということだと思います。そういった意味では、今日、両極端の建物を見させていただきました。水天宮の建物はRCでありながらも日本の伝統的な職人さんを育て、付加価値の高い木材の使い方をしています。一方、新柏クリニックの建物は対極的に燃エンウッド®といった現代の工業力をベースとした技術を育てています。未来はどうなるかわかりません。脆いモノカルチャー社会に陥らないためにも、こういった大きく異なる方向性を育て、時には競わせていくことは重要なのだと思います。ただ、その中で一点忘れてはいけないのは、両者とも同じ根っこ、つまり山に支えられているということです。川下の結果ばかりを尊重し、それに川上を合わせるといったように、山に無理を強いてはいけないように思います。個人的な趣味だとか、木が優れているといった理由ではなく、日本社会の持続性を考えると、木を使うことで、なにより山を育てている人たちに頑張ってもらうこと、喜んで木を出してもらうこと、そのような人たちに豊かになってもらうことがとても重要だと思います。流通を意識した木質建築   90年代の初頭は間伐材を使うことが山の保全だと言われ、それを放置してしまった日本の現状があります。網野 森を放置するわけにはいかず、ちゃんと林業が回って欲しいし、森の若返りというものがあってほしいです。日本、ヨーロッパ、どの文明でも、昔から循環的に木材を使っていくことを重要視しました。木を切って使う量と、森林が成長していく量のバランスというものをしっかり考えながら、それを把握したうえで建物をつくる、あるいは燃料にします。そういったグラウンドデザインみたいなものが木の文化にはあるのです。実際には産業革命以前の社会は森を切りすぎています。それは当時の世界が木に依存し過ぎているからです。なので、東海道五十三次にしても、木曽街道六十九次の版画を見ても、ヨーロッパの中世の油絵にしても、森林が描かれている山などないのです。それほど木材、森林に我々の文明は依存しています。それ故に消費と木材の成長量のバランスを考えた上で社会をつくるという考え方が、木造のデザインの根幹に生まれたのだと思います。昔と違い今は木余りの時代ですが、社会と森のバランスが重要であることに変わりありません。しかし現在は川上から川下の連携が切れてしまっています。かつて大断面集成材に補助金がついて、エンジニアリングウッドのブームが起こり、大空間がたくさん建ちました。今度はCLTです。たくさん建てます、とは言うものの、林業離れや、林産業の衰退に食歯止めはかかならいと思っています。なぜならば、我々の木材の使い方が、そういう人たちにきちんとお金が渡り、再び良い木材が出てくるような使い方をしていないからなのです。木を使えば循環型社会ができるはずだというのは、おそらく完全な誤解です。しかし、CLTも導入されて、これから色々な中大規模木造をつくる動きがあるようです。それを日本林業の救世主だと言う人がいるかもしれないですが、実際のところはわかりません。木造に取り組む我々がやるべきことは、まず山に行くことです。山に行って、森林がどういう状況にあってどういうかたちで木材が流通して、誰が流通のどの段階でどれだけのお金を得ているのかということを把握しないと、川上から川下まで筋の通ったきれいな木造というのはできないのです。できるかぎり建築のお金を川上に還元しないと、木造を支えてきた源流はとんでもないことになってしまいます。このような視点を建物に反映するのも木造デザイナーの役割なのだと思います。防耐火から見た木質建築   現在の日本の建築基準法だと都市部では限られた木造建築しか作れませんが海外ではいかがでしたか。網野 国によって耐火の基準は違うので一概には言えませんが、オーストリアの基準で言えば、日本の耐火構造ほど厳しいことはなく、簡単に言えば準耐火相当の基準だと思います。産業界あげて木造の多層化に取り組んでいますから、多層化に応じた緩和措置も講じられているようでした。ただ被覆によって内外部からは木の構造体は見えない状態ですが。   その制限が木を使うなら見せたいという想いにつながると思います。網野 そもそも日本の木造建築は屋根架構を見せていません。いつから構造を見せることがテーマ化したのでしょうか。やや不思議な感じがします。そのことで耐火のハードルがあがっているということもあると思います。海外の木造建築 サンクト・ゲーロルト タウンホール(オーストリア・フォアアールベルク州)写真:網野禎昭海外の木造建築 フォアアールベルガー・イルベルケ(オーストリア・フォアアールベルク州)写真:網野禎昭Interview04

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