DESIGN WORKS Vol.36
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Interview03優先の観点から、全体として構成やデザインの均質化が進んでいることは危惧しています。その中で、EXPOCITYでは分棟配置した施設群とそれらを繋ぐ庇により、街のスケール感を確保しながら、全体としての一体感を創出しようとする試みがなされており、好感が持てます。しかし、商業施設全体を通しても、新しいものが出来たからと行ってみるとがっかりすることも多く、建築のデザインの力というものが信用されていないなと感じることがあります。建築家のロバート・ベンチューリ※1は、著書『ラスベガス』の中で、建築には「あひる」と「装飾された小屋」の2種類があるとし、内部の機能と切り離して外観をデザインした「装飾された小屋」の方を称えました。大抵のショッピングモールは、この「装飾された小屋」の手法を突き詰めたものと言えます。外側に現れているのは、テナント店舗の看板だけだったりしますからね。ベンチューリの「装飾された小屋」は、建築に新たな魅力を与えるポストモダニズムのデザインとして発展していくわけですが、昨今のショッピングモールの外観にうかがえるのは、建築的なデザインが建築主、テナント、来場客のいずれからも必要とされていないという現状と、それをそのまま受け入れている建築家のニヒリズムです。ポストモダニズム※2が流行った頃、商業施設は他のビルディングタイプと比べて実験的なデザインを色々と試みて建築界でも注目度が高かったのですが、今ではそうした面が弱いですね。「この建築は商業施設として新しい」とは言えても、「この商業施設は建築として新しい」とはなかなか言いづらい、という感じもしています。遺すべき建物とリノベーション 今回は、歴史的な建造物等のリノベーションを行った作品を掲載しております。社会全体としても都市のストックの有効な活用方法が積極的に議論され、多くのプロジェクトが実施・計画されていますが、この動きに対してどう感じておられますか。磯 非常に共感できます。さらにリノベーションの機運が高まり様々なプロジェクトが生まれることを期待しています。北菓楼札幌本館を例にあげると、建物の古い部分はそのままで、積極的に新しい何かを付加する形で新鮮に見せていく手法が優れていると思います。既存のもつ、質感や構成とは敢えて違うボキャブラリーを付加することで新旧の対比が鮮やかに映え、それぞれの良さを相乗的に高めています。 リノベーションにおいて重要なことは何でしょうか。磯 既存建物が建った時代とその次の時代である今につながるような提案を建築に込めていくことが重要ではないでしょうか。その時代の建築をただ残すだけではなく、また建築家のアイデンティティの表現ではなく、その建物のアイデンティティを今に更新するということが重要で、その実現がリノベーション建築の成功ではないかと思います。そのためにはまず、建物の背景を知ることが大切ですが、私は近代建築を見る時は建物だけではなくそれに関わる様々な情報を探します。その建築がある町の図書館に行き、その町の歴史を書いた本を読み、どのような町で、どのような政治家がどのようなことを考えて作った町なのかを調べます。建築を見るだけでも面白いものですが、その建築が成り立っている社会状況や周辺の成り立たせている要素や条件をみていくことも面白く、それはリノベーションを計画する際においても重要な要素になると思います。 近代建築についての書籍も多く執筆されていますが、残すべき近代建築物とはどのようなものでしょうか。磯 1950~60年代の戦後に建てられた建造物に関してはまだ保存についての議論があまり行われておらず、手つかずの状態になっています。その頃の建物は、その時代時代に与えられた条件を建築的なアイディアで一挙に解決していることが見て取れ、建築の力を強く感じます。それらの建築物に設計者がどう関われるか、その辺りは非常に興味を持っています。 その時代の建築の一例を教えて頂けますでしょうか。磯 今まさに各所で解体されているものですが、防火建築帯というタイプの建築があります。都心部の木造密集地で、火災の延焼を防ぐことを目的に、共同で建て替えを行ったもので、1~2階に店舗が入り、その上に住宅のフロアが載ります。長屋形式で連続的に建築を建てていく構成ですが、火事に強い建築都市を作るという要請をクリアしながら、権利者ごとに異なる設計条件も採り入れて、単調に陥らないファサードになっています。1950年代初め、大火に見舞われたEXPOCITY写真:(株)エスエス大阪支店防火建築帯 (山形県山形市すずらん通り)写真:磯達雄
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