DESIGN WORKS Vol.36
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Interview04鳥取市で最初に実現し、横浜、沼津、魚津、山形など全国各地で建設されました。都市の目抜き通りに面して、これが数百メートルにわたって続く様は壮観です。モダニズムでも美しい街並みがつくられることを実証しています。あと注目したいのは、市庁舎、公会堂、図書館などを街の中心部に集めて建てた、「都市のコア」と呼ぶべきものですね。高度経済成長期に日本全国でつくられたこの種の公共施設群は、建物と建物の間をつなぐ広場的な外部空間も含めて、戦後の民主主義的な社会のあり方を理想的に体現していました。こうした公共空間がうまく機能したのかという反省はあるでしょう。現在では、ショッピングモールの方がむしろ、公共性を持った空間として機能しているという面すらあります。しかし都市のアイデンティティを身体的に感じ取れる場として、「都市のコア」のような場は、必要なものだと思います。近年、規模や機能性、そして耐震性などの問題から、次々と建て替えられて、その跡にできる建物が、通常のオフィスビルと見分けがつかないものだったりするのは、残念なことです。防火建築帯とは違いますが、都市の問題を大胆な建築的アイディアで解いた例として、大高正人※3が設計した坂出人工土地も挙げておくべきでしょうね。地上レベルの店舗、駐車場、文化施設と、人工地盤上の集合住宅団地を立体的に重ねて、土地の有効利用を図ったものでした。戦後のモダニズム建築には、単体としての魅力ももちろんあるのですが、こうした都市や社会との関連から、重要性を持ったものも多くあります。すべてを残すというわけにはもちろんいきませんが、その時代を正しく振り返るためにも、少しでも多く残っていくといいと思います。建築を批評するということ 磯さんはジャーナリストとしてこれまでに客観的なメディアという立ち位置で建築を批評されてこられました。批評される際の軸となる基準とはどのようなものでしょうか。磯 現代の社会から求められているテーマに対して、建築を通してどのような答えを導き出せているかをひとつの評価軸としています。もともと雑誌の編集をしていましたので、見出しの書きやすい建築を良く取り上げていましたが、それはある種重要なことで、建築に対して明確なテーマや思想があり、それらを実際の設計プロセスの中でも様々なノイズをクリアしながら竣工まで保持し続けられたということです。そういった建築は強度があります。例えばT-SITEでは「まちのリビング」という明快なコンセプトを実現できていて、結果的にやはり魅力的な建築となっていると思います。 昨今、様々な建築の論考や批評をまとめた媒体の衰退が進行していますが、そうした現代における建築の批評性についての考えをお聞かせください。磯 建築を批評することが難しくなっていることは、自分の問題としても感じています。その要因のまずひとつとして、建築の数自体が少なくなっていることが挙げられます。機能性、経済性、環境性など、建築を建てる条件はかつてより非常に厳しくなっており、その難関を突破してでき上がる建築は、これ以上に批評する余地はないと思えるくらいに、求められる条件に対して最適化されているからです。竹中工務店のような大規模な組織が手がけた建築は、なおさらそうですね。しかしだからこそ、今、与えられている条件に応えるだけでよいのかを、議論することが大事になってきます。時代とともに条件は変わっていくからです。ある条件のもとに最適化された建築群は、条件が変わった途端、一挙に評価を落とすことなるかもしれません。そうならないためには、やはり批評をし合うことが必要です。建築雑誌にもそうした機能はありますが、アトリエ系対大手組織といった不毛な対立に陥りがちです。まずは竹中工務店社内や他の大手設計組織に属する建築家と活発に議論する場を設けることが有効だと思います。大手設計組織には、それができる優秀な建築家がたくさんいるはずです。公開の場で、そうしたことができるといいですね。竹中工務店のアイデンティティ 竹中工務店のデザインについて磯さんの立場から感じるものがありましたら教えて頂きたいと思います。磯 竹中工務店が手がけているもののなかでも特に優れたものばかりを選んで見させて頂いていると思うのでどれも素晴らしいと思います。どれもが都市のなかにしっかり位置づけられていて、利用者に喜ばれるような建物を作り素晴らしいと思いますが、おそらくそういう建物ばかりではないはずです。いま建設会社の特徴が私はよく分からなくなって坂出人工大地写真:磯達雄
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