DESIGNWORKS_42
4/36

Interview02本号は、「医療・教育」をテーマに特集しています。当社と共同で健康な空間・まちのあり方を探る「健築®※1」に取り組まれている千葉大学予防医学センター准教授の花里真道先生にお話をうかがいました。   まずは本日ご覧になった立川綜合病院について感想をお聞かせください。花里 まず、建築全体が、人を中心とした発想でつくられているのではないかと感じました。低層で地面にしっかりと根付いた建築であるということと、そしてその周囲にある自然など外部環境を積極的に取り込まれているというところに、人を中心とした発想を感じました。そのコンセプトを高い密度でデザインに昇華されています。病棟と診療棟の2つのボリュームに伴う構成上のルールをしっかり設定しておきながら、意外とそのルールに縛られず、各ボリュームのベースとなる仕上げをアイレベルでは同一の仕上げとしたり、視線の先に遠くの自然の風景を映しこんだり、その場所場所で、人視点での最適な状況に答えているように見えました。建築的な表現を追求していくと、どことなく親しみがなくなっていくような建築になってしまうところを、上手に親しみやすい空間をつくられているように感じました。全体を通して見ると、土縁モールに外部空間の仕上げを巻き込んでいるようなつくられ方などもそうですが、建物というよりも1つのまちといいますか、ある公共性を持ったまちのようなものがつくられているように感じ、非常に居心地のよい病院建築になっているのではないかと思いました。健康な建築 「健築®」   当社と共同で取り組まれている「健築®」についての取組みやお考えをお聞かせください。花里 「健築®」では、政府の成長戦略に「健康寿命」の延伸が掲げられるなど、日本だけでなく世界全体で健康への関心が高まっているなかで、竹中工務店と共同で、空間づくり、まちづくりの立場から健康な生活・社会の実現に向けてどのような貢献ができるのかを考え、活動しています。最終的には、健康な状況を空間・まちの中に組み込んでいくためのデザインガイドラインのようなものをまとめていきたいと考えています。ここでいう健康とは、体に支障がない状態(Healthy)だけを指すのではなく、体に支障があっても生き生きと過ごすことができる状態(Well-being)を指しています。「健築®」では大きく「交流」と「身体活動」と「感性」という3つのキーワードを切り口に健康的な状況を捉えています。「身体活動」は自明だと思いますが、「交流」というのは近年の医学的な研究で、人と人とがつながっていることが、実は健康に非常に重要だということが分かりつつある状況です。これまでの世界中の建築はコミュニケーションに価値を置いてつくられているものも多いと思いますが、それを今一度医学的な視点でも位置づけたいと思っています。次に「感性」ですが、感性に響く空間は気分を良くするといいますか、心の健康に寄与する効果があるのではないかと考えています。そういった視点で立川綜合病院を振り返ると、長岡の風土を考慮された、光が落ちてくる土縁モールは、訪れる人の「感性」に働きかけるでしょうし、モールや病室内の共有スペース、スタッフベースの吹抜階段など、さまざまなかたちで「交流」のきっかけをつくり出していると捉えられます。こういった空間性は病院という、心身ともに傷をおった方々が多い場所で非常に効果的に働いているのではないかと思いました。   世界的にも WELL Bulding Standard※2評価システムが注目されてきています。そういった健康を取り巻く潮流の中での「健築®」の位置づけを教えてください。花里 WELL Building Standard のあり方には非常に賛同しています。この評価システムをきっかけとして健康というものを建築に携わる多くの人が考えるようになりました。膨大な調査研究によるエビデンスにより培われた評価手法は適切なものだといえます。そのエビデンスの大半は従来の環境工学などからわかってきている健康への影響が占めているのですが、環境工学での研究は悪いものを早期に発見してそれを取り除いていこうというアプローチが多いです。その視点も重要ですが、積極的に良い方向に向かうためにどういったセッティングを構築することができるかということを考えています。そこで我々が特に注目しているのは「交流」「感性」という観点で、環境工学の指標で数値化することが難しい項目について関心を持っています。その部分を竹中工務店とともに深めていくことでオリジナリティのある健康と建築のあり方を示すことができるのではないかと考えています。   健康な空間を生み出すためのメソッドがデザインガイドラインとして体系化されることには可能性を感じます。花里真道氏に聞く生き生きとした空間・まちへInterview立川綜合病院写真:小川重雄健築®のコンセプト

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る