Interview05れますが、適切な健康教育をという「ポピュレーション・アプローチ」を実践する場として非常に重要な施設だと考えます。ワーク・ライフ・バランス‐家庭と職場のスピルオーバー 昨今、過労死問題等働き方に関する現状の問題が発露し、それに対して「働き方改革」など制度の見直しが進んできています。それに対する健康という視点からのお考えがあればお聞かせください。花里 働き方改革は推進されていくべきだとは思いますが、それに応じた空間やサービスの整備も必要だと思います。労働時間など就業スタイルが注目されがちですが、仕事の質を高める具体的なアプローチへの取り組みが求められていると感じます。そこで、「健築®」のような試みにより、健康に配慮した空間・まちづくりを率先して整備し、社会全体でワーク・エンゲイジメントを高めていくことが非常に重要なのではないかと思っています。また、ワーク・ライフ・バランスの中で職場と家庭の「スピルオーバー」の重要性も議論されています。仕事で培った能力を家庭でも活かせる、あるいは、楽しい週末を過ごすと仕事も頑張ろうという気になる、というポジティブな効果「ポジティブ・スピルオーバー※8」がうまく働いている状況だとより生き生きと働けるのではないかという考察もなされています。ワーク・エンゲイジメントが単に生産性や労働時間というものにとどまらずに家庭との関わりなどとも合わせて考え始められています。職場と家庭の両立というのは困難な課題と捉えられがちですが発想を転換し、ポジティブな側面を充分に捉えていこうとする。そういった意識づくりも必要になってくるでしょう。 最後に、設計施工に取り組む竹中工務店に対して今後期待することなど、コメントをお願いします。花里 わたしが感じていることは、竹中工務店は建築に対して真摯で大変高いクオリティをもったものをつくられていると認識しておりまして、これまで培ってきた建築の価値をそのまま磨きあげていくことを期待するとともに、そこに私の注目する「交流」「身体活動」「感性」に働きかけていく人に根ざした空間づくりを目指していってほしいと思います。また、竣工後のアクティビティの分析評価など、空間デザインにとどまらない事業を視野に入れていこうとしたときに、設計・施工そしてアフターフォローも含めてクライアントと高い信頼感を構築している竹中の強みを活かせるのではないかと期待しています。さらに、「健築®」の活動主旨や事例を紹介するウェブサイトの公開を予定されています。こうした情報発信やコミュニケーションを関係するステークホルダーと重ねていくことで得られるフィードバックにより、活動がより一層推進されるのではないかと思います。加えて、まちづくりに積極的に取り組もうとしていることに大変共感しています。ぜひ、まちづくりの視点からも健康という考え方を重視していただければと思います。 本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則・北原祥三・鈴晃樹・鎌谷潤)※1 健築®(けんちく)竹中工務店と千葉大学予防医学センターが共同で構想した健康的な建築・まちづくりに関するコンセプト。「交流」「身体活動」「感性」の3つの特性を軸として、健康な生活、健康な社会の実現に向けての活動を進めている。(建築®ウェブサイト https://kenkou-kenchiku.jp/)※2 WELL Building Standard2014年から始まった、建物環境が人間の健康とウェルネスにどのように影響を与えるかに焦点を当て、より良い環境の創造を目指した建物評価基準の1つ。空気・水・食物・光・フィットネス・快適性・こころの7つの建物性能の基本コンセプトにおける100以上の項目によって評価する。※3 QOL(Quality of Life)ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことを指し、ある人がどれだけ人間らしい生活、自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念である。※4 ワーク・エンゲイジメント従業員と仕事内容の間に構築されるエンゲイジメント(絆、愛着心、思い入れ)であり仕事に対してポジティブで充実している心理状態を指す。「活力」「熱意」「没頭」の3要素から構成される複合概念。※5 Built environment (建造環境)人工的に造られた環境で、土地利用や交通機関を含む都市構造、各種施設へのアクセス、住宅の種類や質などが含まれる。※6 ポピュレーション・アプローチ集団全体、分布全体に働きかけて適切な方向に少しずつシフトする方法をポピュレーション・アプローチと呼ぶ。対して、健康障害を起こす危険因子を持つ集団のうち、高いリスクを有する者に対する方法をハイリスク・アプローチと呼ぶ。※7 ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)人々の協調行動が活発化することにより社会の効率性を高めることができるという考えのもとで、社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念。※8 ポジティブ・スピルオーバー仕事生活や家庭生活など複数の役割を持つことで相互の役割に良い影響を及ぼしあうことに注目した概念。人間が持つ時間や能力は拡張的で、役割が増えると収入、経験、自己実現やよりどころが増える」という仮説から発展した。花里真道(はなざと まさみち)/千葉大学予防医学センター健康都市空間デザイン学分野・准教授 博士(工学)2002年2004年2004-07年2008-11年2011-13年2013年-千葉大学工学部デザイン工学科卒業同大学工学研究科修士課程修了株式会社栗生総合計画事務所千葉大学予防医学センター技術補佐員同センター特任助教同センター健康都市空間デザイン学分野・准教授
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