DESIGNWORKS_Vol43
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Interview02本号は、「住まう、集う、くつろぐ」をテーマに集合住宅やホテル等を特集しています。住まい方や家族のあり方が多種多様となる社会的背景の中、インタビューには工学院大学の木下庸子先生をお招きし、竹中工務店の近年の作品をご覧いただきながら、人の住まいや人が集いくつろぐ場に必要なこと、またそれらが人に与える影響についてお話をうかがいました。   まずは本日ご覧頂きました「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」、「東京大塚 ba Project」の2作品について感想をお聞かせください。木下 最初に見せていただいた「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」は、まわりの環境をよく読み込みこんだ配置計画と、近隣の方々にもメリットとなるようなにまとまった緑を敷地内にしっかりと計画されているということが印象に残りました。エントランスホールを入ってすぐに最初の顔となるラウンジがありましたが、こういう集う場というのはとても重要だと思います。日本の場合、なぜかこのような共用部はうまくいかないケースが多いのです。管理が大変だという理由や、単純にその分で住戸数を増やせるのではないかといった理由で、採算を考えるとなくなってしまうことが多い中で、建物に入ったその突き当りに心地よい緑が一面に見え、吹き抜けの天井の高い空間が用意されているのは、この建物の品格を象徴していると思いました。緑についても、あれだけ豊かな緑地を、最初につくること自体はイニシャルコストをかければできることですが、それをメンテナンスし継続して使い続けられるかたちとすることが集合住宅ではとても重要で、それが建築のクオリティにつながると思います。2つ目の「東京大塚 ba Project」は集合住宅とホテルという、用途の違う2棟の建築でしたが、これらの建築が何かまわりに発信して周辺を変えていくといった、まちづくりのまさに火付け役のような存在となっており、そのような建築が、単体でなく2棟存在することでこれからのまちの展開が非常に楽しみだという気がしています。用途の違った2つの建物が、格子という共通の建築エレメントでファサードが構成されており、今後も3つ目、4つ目とこの地域の建物に展開されていくと、まち並みとしての統一感、言い換えると「個性がありつつ統一感を持つ」景観づくりに発展していくと思われます。まちのイメージを変えていくのは建築だからこそできることで、建築にはその力があると思います。また建物1棟ではなく複数近接して存在することによって、街並みとしてのインパクトも出て来るということを、本日拝見した2つの作品で感じました。デザインのアプローチはそれぞれ異なりますが、いずれも明快なコンセプトの元にかなり粘り強く考え方を追求しています。コンセプトを繰り返し振り返り、あたためながら実現したデザインの力強さというものを感じました。デザインの実現には発想とこだわりと粘り強さが重要だといつも思っています。デザイナーとしての粘り強さ   デザインの粘り強さというのは、具体的にどのようなことでしょうか。木下 まず「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」で感じたのはディテールへのこだわりです。現地でのお話で、樋を見せないディテールについて追求しいろいろと模索されたというご説明を伺いましたが、それらはディテールへのこだわりとそれを実現するための粘り強さの結果だと思いました。樋を隠すディテールひとつ考えるにしても結露や水漏れ対策、継手やつなぎ方についての問題をすべてクリアしなければならないし、きっと現場とのやり取りを何度も繰り返されたことと思います。ディテールに関しては過去の安心で確実な事例をそのまま採用するという選択肢もあるなかで、当然それは一番単純な解決策であるなか、それに対し改善しようという、そのちょっとしたチャレンジがやはりデザインにはすごく重要だと思います。それらこだわりの蓄積とその結果できた建築が、おそらく空間の快適性や住人の住まいに対する愛着心や、アイデンティティにつながっていくのだと思っています。それには建築家がデザインするうえでのこだわりと粘り強さが大事だということです。建築のデザインの力強さという話に戻ると、やはりそのようなこだわりの元に実現した建築は人に影響力を与える力があると思います。私の経験から話をさせていただくと、住宅を新築してすごく病弱だった人が健康になったとか、夫婦喧嘩が減った等、嬉しい話を聞くことがあります。建築はそのような影響力を持っていると私は信じています。住宅は日常の居場所ですから、そこが自分の快適な場所であり、自分の誇れる住まいであれば、それが精神に及ぼす影響は強いと思います。ただ、建築とそのインテリア木下庸子氏に聞く人が集うための仕掛けInterviewザ・マスターガーデン横濱上大岡写真:ミヤガワba Project ba 01写真:SS東京 島尾望ba Project ba 03写真:アルテフォトスタジオ 光齋昇馬

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