DESIGNWORKS_Vol43
5/36
Interview03空間が精神に及ぼす影響については研究として発表されたものはないと思われます。でも、私はそこになにがしかの関係があるのではないかと思っています。実は、長寿にも影響するのではないかと密かに考えています。手前味噌になりますが私が初めて、30年以上も前に設計した「湖畔の住宅」には今でも年老いた両親が二人で住んでいます。あの住宅は2階にリビングがあるため、階段を毎日何度か上り下りしなければ生活が成り立たないのです。歳とともに1日に上り下りする回数は少なくなっているようですが1日に何回か上り下りすることは運動にもつながり、健康にも有効です。ストレス・フリーな住宅をつくりたいと思って設計したので、設備面においても、多少ランニングコストは高いとの批判はありましたが、温熱環境の快適性は確保できているので、それもきっと長生きに貢献していると、私は勝手に思っています。大塚のように街並みとして捉える場合は、ある地域に建てられた建築がひとつでは影響を及ぼさないかもしれませんが、それが2つ、3つと群をなすことでどんどんまちが変わっていくと思うのです。「東京大塚 ba Project」は今回同時に2つ実現されたのだから、建築がまちを変えることに対しての波及力は大きいと思います。現にもう変えつつあると今日感じました。まちづくりと建築 まちづくりというキーワードが出ましたが、まちと建築との関係について考えられていることはありますか。木下 ひとつは建物をまちに開くということです。「東京大塚 ba Project」でも足元まわりをまちに開き、まわりの人を建物に招き入れる工夫をしているのは、まちのアクティビティの創出にはすごく効果的だと思います。まちと建築との関係というご質問に対して少しお話すると、私たちの手掛けた「真壁伝承館」の事例では、歴史的な街並みをどのように新しい建築に反映できるかという課題に対して、サンプリング&アセンブリという設計手法に至りました。まちの潜在力として存在する建築エレメントをサンプリングし、それをアセンブリしながら新しい建築をつくることを試みました。その際設計した建築は鉄板を構造材として使用する、現代だからこそ可能な技術をあえて採用しました。瓦屋根にすれば、木造にすれば、漆喰にすれば歴史の継承になるといった考えではなく、新しい現代の技術だからこそできる建築をその土地のコンテクストにはめ込もうという設計者としての姿勢が、サンプリング&アセンブリという設計手法には表れているのです。まちづくりの中でも、次の時代に繋げていきたい、将来に継承していきたいものをサンプリングしてアセンブリするということが、まちづくりの手法のひとつとして私は有効ではないかと思っています。今日の大塚では格子がひとつのまちの新しいエレメントとして2棟の建築に共通して用いられています。「真壁伝承館」のようにすでに街並みに存在するものをサンプリングして展開していくという考えもありますが、格子という、今までにない建築要素を、あえて対比的なモチーフとして展開していくというのもまちづくりの手法としてあるのではないかと思います。住まいを考える 住まいを設計する上で考えられていることはありますか。木下 私は父の転勤もあり、若いころに日本やアメリカでたくさんの住まいを体験しました。生まれて最初に住んだ家はさすがに覚えてないのでそれを省いても大学院を卒業するまでの24年間の間に約20カ所、平均すると1年数か月に1カ所の割合で住まいを移っていたことになります。私の住まい感は、これだと規定できるものは特段なく、どちらかというとどんな住まいでも住みこなせるという気がしています。ただ、住まいは楽しい場であってほしいと思っており、自分が帰りたい場であることが大切だと思います。クライアントと住まいをつくるときも、やはりその人にあった独自の住まいを提案したいと思っています。時々ADHの仕事はスタイルが無いと言われることもありますが、むしろそれは各クライアントが違うようにそのクライアントから住まいに対する思いを引き出しながら住宅をつくっていくからだと思います。私たちが住宅建築をつくるプロセスは、ある種精神科医みたいだと誰かから言われたことがありました。精神科医とまではいかないまでも、住まいに対するさまざまな思いを聞き出す過程は精神科医に通じるところは確かにあると思います。大切にしているのは、そのクライアントが生活の何を一番大事に思っているかということを探り出すことです。そして自分がそのクライアントになったつもりで設計することです。あるクライアントの方に、「先生はどうして私が気に入る住宅を提案湖畔の住宅写真:古舘克明真壁伝承館写真:Nacása & Partners Inc.
元のページ
../index.html#5