DESIGNWORKS_Vol43
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Interview04できるのですか」と聞かれたことがあります。その時私はクライアントになりきりますと答えました。私は必ず設計する住宅に自分が住んだつもりになります。イマジネーションとともに、あの人だったらここに何を置いてどのように住むかといったように自分がシミュレーションしながら住むのです。おそらく設計したすべての住宅に、私は空想のなかで住んでいます。その質問をされたクライアントはたまたま大量のブランド物の洋服と小物類をお持ちの方で、私とは違った華やかな方だったのですが、私は常に自分が住まい手になったつもりで考えます。役者になりきってロールプレイをすることもまた、建築家の素質として役立つかもしれませんね。集合住宅と住宅は違う木下 集合住宅も自分でシミュレーションしてみますが、集合住宅は事情が少し違います。集合住宅は住宅と比べて少し客観的に設計に携わっているように思います。ここに住む人はどのように住むかなと考えますが、特定の住まい手がいるわけではないので、住宅ほどつくり込まないようにしています。そこが少し違うと思います。『集合住宅をユニットから考える』を書いていた時に感じたことですが、戦後の、特に団地は、実は自分も住んでいましたが、nLDKという定型化されたモデルの住まいを数多くつくることで、あの時代の住宅難を大量供給で乗り切ろうとしたわけです。現代は生活のあり方がとても多様化しています。そのようなシチュエーションのなかでは、住宅はさまざまなバリエーションがあって、それを住まい手が自分で選んで住むという住まい方を現代社会は求めているのではないかと思いました。実は私が最初に日本に帰ってきて驚いたのが、住まい探しの際に、何㎡であればこのプランといったようにほとんど一律で、選択肢は駅から何分かくらいだけ。唖然としました。アメリカの経験では「こんなプランが見つかったからここに是非住みたい。」といったような会話ができるのですが、日本ではそういうオプションがほとんどない時代が一時期あったわけです。現代の分譲マンションも本質的にはあまり変わらず、ほぼ同じプランのものが多いと思います。しかし住まいに生活を合わせるのではなく、もっと多様な住空間があり、それを住まい手が選択するという筋書きにできないかなと考えています。人が集うための仕掛け 集合住宅の中での「集う場」をつくるためにはどのようなことが必要だと思いますか。木下 まずは、心地よい場を用意することではないでしょうか。居心地のよい空間にはおのずと人は集まるものです。ただ集まるだけでなく、インタラクティブに会話なり意見交換なりを誘発する空間であれば、なおよいでしょう。会話を誘発する仕掛け、英語でいうカンバセーション・ピースでしょうか。そのようなものがあると会話はさらにはずむでしょう。人間の行為を誘発する仕掛けを用意することは建築では可能なのです。「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」でいえば、メインエントランス突き当りの緑につながる、吹き抜けのあるラウンジはとても居心地のよい空間ですよね。まわりにはすてきな本や装飾品が飾られていたと思います。まさにカンバセーション・ピースですよね。これらのすてきな装飾品はセキュリティが悪ければ盗まれてもしまうわけで、あのようにディスプレイしておけるということ自体がその建物のクオリティにも通じるのです。一方「東京大塚ba Project 01」ではロビー空間が快適な集いの場となっていましたね。レセプション・カウンターは中心に置かれていながらも、小さめで主張せず、お客さん中心の空間になっていました。入ったときに全部が見渡せないのもよいですね。見渡せないということはすなわち、死角がある。言い換えると隠れ家的な居場所もある。待ち合わせたり、集ったりできるロビーでありながらも、ひとりで作業する場であったりもするといったようにさまざまな選択肢を持っています。カフェも併設されていますし、外部の人の利用も歓迎とのことだったので、まさに都市とのインターフェイスの空間として機能していますね。4階という位置にあるのも、少しエクスクルーシブな感じで、都市の隠れ家的ホテルのロビーとして最もふさわしいと感じました。家具も、椅子からソファーまでバリエーション豊かにそろえられていて、その日、その時の気分でチョイスできるのもよいですね。「まちのリビング」といってもよいような空間だと思いました。以前手がけた事例の話をさせてもらうと「白石市営鷹巣第2住宅シルバーハウジング」では、高齢者世帯も若いファミリー世帯も一緒に住まわせるソーシャル・ミックスを念頭においた戸建ての集合住宅を設計しました。プロポーザルコンペの応募段階で、高齢者の白石市営鷹巣第2住宅シルバーハウジング写真:FUJITSUKA Mitsumasa
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