DESIGNWORKS_Vol43
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Interview05研究をしている研究者からのヒアリングにより、高齢者が高齢化施設に入って誰とも話さない時期が続くと、ごく短期間で認知症の症状が出てしまうそうです。しかし、お互いに声をかけあうことが日常的な、例えば下町の施設では、声を掛け合うことが脳の刺激となるのか認知症の症状が出にくいようだとのことでした。では建築で声をかけやすい空間とはどういう空間かと考えた時に、共用の外部空間に着目しました。白石の集合住宅では5~7戸を1グループとして3つにグルーピングし、外部空間に関わる3つのキーワードを用意しました。ひとつがクラスターの中心となるソトマ、次が玄関とソトマを繋ぐ木のパーゴラがかけられた玄関先のセミパブリックなエンドマ、そして洗濯物を干したりボイラーを置いたり倉庫となるような裏方のプライベートな庭ともなるコニワを用意し、ここに勝手口を設けました。この3つの外部空間のヒエラルキーが配置計画の手がかりとなった設計を行いました。コニワに勝手口を設けたのは、かつてアメリカの建築家と社会学者が共同で設計した高齢者施設を見せてもらった時に、社会学者が建築の機能に対して社会学的な名前を付けていました。例えばエントランスはアイデンティティ、階段踊り場は下を覗けて誰がいるかを確認できる場所という意味でプレビューイング。そしてその中にソーシャルエスケープというのがあり、それは勝手口に代わる呼び名でした。誰にも見られないでエスケープできるそのソーシャルエスケープというのが、ずっと頭に残っていて、集合住宅にも、特に戸建ての集合住宅にはそれが有効だろうと思ったのです。更に自分たちに与えた条件として、エンドマ同士は交流を促すために必ず見合う、コニワは逆にプライベート性を保つために絶対に見合わないといったルールをベースに設計を行いました。また、玄関裏にあるキッチンには窓を設けその窓から玄関、エンドマを経由して外が見えるようにすることで、ソトマやお向かいの家のキッチンの様子も何となく見えてお互いに気遣いながら生活できるようにしました。これは本当に小さな設計の仕掛けですが、入居されて1年目のおばあさんへのインタビューの時に、まさにそのキッチンの窓が気に入っていて、向かいのおじいちゃんがどうしているかとキッチンでお湯を沸かしながら見るのだと話してくれ、意図通りに住んでいただいていると嬉しくなりました。人が集うためには集うための仕掛けが大切だと思います。   最後に、設計施工に取り組む竹中工務店について、コメントをお願いします。木下 設計の発想が浮かんだ状態で、すぐに施工部隊にその相談ができる仕事環境はとても羨ましく思います。また、会社として設計者をサポートする組織の体制も感じますし、施工技術も含めさまざまなチャレンジをエンカレッジしているところが素晴らしいです。そして設計者自身がやり取りや苦労を通して得た成果にプライドを持っており、それが間違いなく原動力になっていると感じました。竹中工務店内でもいい意味での競争があり、竣工建物見学会で情報交換を行っているとお聞きしました。過去の作品事例もものすごく多くある中で、それを採用すれば効率よく安全な建築ができる状況でも、新しいことにチャレンジしようという姿勢は建築デザイナーとして持つべきであり、尊重すべきだと思いました。   本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則・千賀順・鈴木重則・入江祥太)木下庸子(きのした ようこ)/建築家・工学院大学教授1956年1977年1980年1981-84年1987年2005-07年2007年-主な著書主な作品東京都に生まれる スタンフォード大学卒業 ハーバード大学デザイン学部大学院修了 内井昭蔵建築設計事務所勤務 設計組織ADHを設立 UR都市機構 都市デザインチームリーダー工学院大学教授 共著書『孤の集住体-非核家族の住まい』(住まいの図書館出版局、1998)『住宅という場所で』(TOTO出版 2000)『建築家と家を建てたい』(朝日出版社、2002)『集合住宅をユニットから考える―Japanese Housing Since 1950』(新建築社、2006)『設計する身体をそだてる―考えを伝える図面の技術』(彰国社、2013)『いえ 団地 まち̶̶公団住宅 設計計画史』(住まい学大系103)(ラトルズ、2014)NT(千葉県千葉市、住宅)(1990) 日本基督教団ユーカリが丘教会+光の子児童センター(千葉県佐倉市) (2000)兵庫県西播磨総合庁舎(兵庫県赤穂郡)(2002)IS(北海道札幌市、住宅)(2003) 白石市鷹巣第2団地シルバーハウジング(宮城県白石市、住宅・集会施設)(2003)アパートメンツ東雲キャナルコート(東京都江東区、共同住宅)(2005)CIRCO(東京都世田谷区、共同住宅)(2011) 保土ヶ谷駅前ハイツ・バリューアップ修繕(2015)

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