DESIGNWORKS_Vol44
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Interview02本号は、「オフィス」をテーマに特集しています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)都市・建築学科教授の阿部仁史先生にお話をうかがいました。 まずは本日ご覧いただいた「旧山口萬吉邸 / kudan house」、「OVOL日本橋ビル」、「THIイノベーションスペース整備計画」の3作品について感想をお聞かせください。阿部 「旧山口萬吉邸 / kudan house」を見て思ったのは、ひとつは圧倒的なモノの力です。壁の質感や鉄の扉など、すごくものの質感があると感じました。もうひとつは独特のスケール感です。つくられているモジュールが現代の建物と全然違っていて、建築が大きなフレームワークに支配されているとしみじみ思いました。難しいプロジェクトだと思いますが、それが良く残っていて、楽しかったです。「OVOL日本橋ビル」のオフィスに行ったとき、回遊性と滞留性を意図的に共存させている共用廊下部分に興味を持ちました。賃貸の建物にはテナントの専有部分と共有部分があり、動線やトイレ、湯沸し室といった共用部分を豊かにしてあげると全体がもっと豊かになると考えていますが、賃料を生んでいるのは専有部分なので、面積や費用など、そこが難しいところでもあります。Wework※1のように、専有部共用部含めて全体を借り、ユーザーにサービスとして場所を提供するような動きが生まれてきています。そのような場合、共用部に豊かな場所を提供しつつ、変化に対応する高い柔軟性の確保が重要となるため、今までの専有部、共用部という分け方も変わってくるし、設計の仕方も変わってくるのではないかという気がしています。「THIイノベーションスペース整備計画」を拝見したとき、こうした変化を映し出した建物であると感じました。個人の居場所として確保されてきた働く場が、ダイナミックなコミュニケーションの場にシフトしてきている、そうした時代変化への建築的レスポンスの一つであると思います。我々が設計のよりどころにしているフレーム自体が揺らぎ出してきた、おもしろい時代になってきたと考えています。枠組みをずらしていく時代阿部 近年、いろんなタイプの働くことをベースとしたビジネスが大量に出てきていて、それが建築の枠組みを大きくずらしていくような大きな動きとなっているように思います。Weworkのようにサブリースを基本とし、既存の不動産を借りてサービスをアドオンし、小割にして、床面積あたりの賃料を高くするという新たな収益モデルが生まれてきただけではなく、メンバー制のサロンの延長上のものや、Pod Share※2というスペースですが、コミューンのようにユースホステルと働く場所が混在しているものなど、この数年で爆発的に「働く」と「住む」との間の様々なライフスタイルのバリエーションが生み出され、それに対応したサービスや空間が編み出されてきていて、おもしろいと思っています。考えてみると、近代に住むことと働くことを分けたところから現代の街は始まっています。50年代や60年代のオフィスデザインは機械のようで、ノーマン・ロックウェルの絵のようなガウンを着て、奥さんが入れたコーヒーを飲みながらくつろぐ家庭生活のイメージとは対比的だったと思います。その当時は、働くことはすべてロボットが対応し、人間はみんなレジャーだけを楽しむような未来をイメージしていましたが、それに反し現代では働くことと住むことが、多層的に同じ次元で存在するようになり、会議中にスマートフォンで自分の趣味に関わるテクストのやりとりを同時にするような時代になってきているように思います。Weworkの快進撃の要因も、WeworkとWelive※3があって、住むことと働くことを一括していることにあると思います。彼らはリノベーションを基本としていますよね。Google Playa Vista※4もそうですが、もともとその建物が何のためにつくられたかは関係なく、本来の機能とずれていることをプラスにしながら建物を使っていくところがあります。われわれはビルディングタイプに応じて街を意味づけしていくような考え方をしていますが、こうした前提がどんどん変わっていく世界になると、何をベースに設計を固めていくのか、原点に戻ってやっていかなければならなくなっていると思います。UBER※5やAirbnb※6、Bird※7のようなシェアードエコノミーの流れが広まっています。この流れに大きく影響を受け、既存のビジネスの多くもまた変わろうとしています。日常生活に存在する時間と空間の“空き”を活用するこの新たな経済は、様々な情報技術と連動して、われわれの「働く時間の隙間に暮らしの時間」を「暮らしの時間の隙間に働く時間」を差し込んで混ぜ合わせ、住まうと働くが混在する時空間を生み出しています。われわれが働くことと住まうことを分けたことから始まった街づくりや阿部仁史氏に聞くワークプレイスの現在Interview旧山口萬吉邸 / kudan house写真:ミヤガワOVOL日本橋ビル写真:小川重雄THIイノベーションスペース整備計画写真:小川泰祐
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