DESIGNWORKS_Vol44
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Interview03建築の方法や考え方は、働くことと住まうことが再び融合した時に変わらざるを得ません。今は、色んなことが起き始めている最初の段階で、それが一番わかりやすい形で起きていているのが働く場なのだと思います。ゲンスラーがつくったC3※8というオフィスビルがあります。倉庫を上に乗せていったような7層の建物で、平面は60×60m、階高が非常に高く、1層5mほどあり、中二階がある階は10mほどあります。 外側にあるガラスは、一部ガレージドアみたいに全面開放されるようになっています。すごく雑な作りなのが面白くて、本当に倉庫みたいなつくりになっています。床はコンクリートで、鉄パイプと金網でできたフェンスのような手摺がついています。これがいい建築かどうかは別にしても、価値観を既存のオフィスビルからずらしたことで生まれたデザインといえます。容積のほうにお金をかけ、その分だけ削るとこを削るということです。建築というのは、普段存在している枠組みの中で要求されるプログラムをどう形に落とし込んでいくのかという作業をしています。建物ができていくためのいろんなレイヤーがあり、法規や、ビルディングタイプ、こうであるべきという前例であったりします。こうした枠組みが揺らぎ始め、枠組みそのものを書き換えてもいい時代になってきていると感じています。そこから、今までとは違う都市や建築のデザインがでてくるのではないかと考えています。C3みたいなのも10年前だと許されないデザインでした。見学させていただいた「旧山口萬吉邸 / kudan house」も、寸法が当時の枠組みでつくられていることが、現在は空間の質の違いとして感じられます。僕らが今まで語ってきた伝統的な意味でのデザインから、より枠組みそのものを書き換えることに、デザインの意味が変わってきたのかもしれないと考えています。デザインと建築家教育   このようにデザインの意味が変わっていくとすると、建築デザインはどういう風に関われるでしょうか。阿部 光や空気、質感などといった建築の要素は変わらないわけです。伝統的な意味での場所づくりを扱う部分は変わらないと思います。ただ、設計者が、今までの枠組みの中でデザインをするだけではなく、枠組みの方をも考えていく必要があるということです。建築の教育には2つ非常に大事な、でもお互いが相反する役割があります。ひとつはプロフェッションをいかに維持してディスィプリンとしての枠組みを守っていくのかという役割で、そのために今まで蓄積されてきた職能の知識を学生に伝え、彼らが未来のプロフェッショナルコミュニティにその一員として参加できるようにトレーニングしていくということです。一方でもうひとつ大事なミッションとして、第一の役割を完全に裏切る形になりますが、職能に常に疑問を抱き、それを拡大し、再定義していくことがあります。いわば、維持と破壊、そして再生を繰り返しながら職能を支えていくということです。職能維持のためには、しっかりとカリキュラムを作り、今まである知識を伝えてあげるというのが必要となります。しかし、これから起きること、何が起きるかわからないことに対することが必要な職能の再定義のためには、優れたプラットフォームをつくってあげるしかないと考えています。そこに学生やいろいろな人たちを乗せてあげて、対話と協働を支援する知識生産の場を生み出さなくてはいけません。僕は最初の形式をカリキュラムモデルと呼んでいて、もうひとつはプラットフォームモデルと呼んでいます。プラットフォームモデルでは、プロジェクトを基本として、学生の活動やその可能性を支援するというやり方をしなければいけません。こうしろ、ああしろと説教する、クラスルームモデルの教育ではうまくいきません。いい学校というのはこの2つの側面を持っています。今日本の学生たちは、建築家になるよりもゼネコンやITに行った方がいい、いやこれからはweworkか?などといっているように聞きます。これは社会構造の中で建築というビジネスの構造が古くなってきているからかもしれませんし、だからこそ建築職能を再生していくようなことを考えていく役割をきちっと大学でやって行かなければならないと思います。大きく社会構造が変わりかけている今が、大きなチャンスなのかもしれません。維持と再生、この2つの軸が大きく離れ出している中で、多様な建築のあり方、いろんな建築家が出てくると思います。 経験としての建築   いろんな建築家とはどのようなものでしょうか。阿部 例えばWeworkとかAirbnbみたいな、ビジネスが出てきて、今まで不動産として考え※6 Airbnb宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト。世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供しており、 サンフランシスコに本社を置くAirbnb, Inc.により所有、運営されている。2008年設立※7 Bird電動スクーターのシェアリングサービス。2017年設立※8 C3カリフォルニア、カルバーシティに建つ、倉庫空間を縦積みしたような形式を持つクリエイティブオフィスビル。テナントに柔軟性の高い空間を提供する。2016年竣工※4 Google Playa Vista1943年にハワードヒューズによって立てられた格納庫を改装し、仕事、交流、協働、そしてリラクゼーションのための4層の空間を加えたグーグルのオフィス。「建物の中の建物」がコンセプトで、2018年竣工※5 UBER自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ。現在は世界70カ国・地域の450都市以上で展開。サンフランシスコに本社を置くUber Technologies Inc.が運営。2009年設立※1 Wework ※3 Weliveアメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市 に本社を置く、起業家向けのコワーキングスペースを提供するアメリカの企業。2010年設立。オフィスシェア事業サービスとしてwework,共同生活型デザインのアパート運営としてweliveを展開。※2 Pod share 宿泊機能とアメニティコモンズを備えたコワーキングスペース。ノマド的なライフスタイルを支えるネットワーク構築を目指している。2012年設立、現在ロサンゼルスに5箇所展開している。

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