DESIGNWORKS_Vol44
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Interview05それがどうスタンダードとして広まっていくのかを考慮する必要があります。BIMというのは価値観や技術レベル、バックグラウンドも全然違う人たちが集まって仕事をするためのシステムで、優れた品質を確保するというよりも、むしろ底上げのためのシステムなのだと思います。それが日本のゼネコンでなぜできないかというと、多分すでに持っている洗練された建設のシステムとグローバルなBIMが合わないということだと思います。日本のシステムは素晴らしいですが、世界はもっといい加減なやり方でできていて、その共有言語としてBIMが広まっているので、より洗練されているからと言って日本のシステムに固執することがかならずしも正しくなくて、誰でもどんなレベルの人でもやれてしまうシステムをもって、ほどほどにやるということの方が、実はシステムとして強靭であると思います。究極的には品質や生産性を高めていく、自分たちのシステムを洗練していかなければならないわけですが、高めていったが故に、今度汎用性を欠いてしまう可能性があるということです。それが日本のゼネコンの一番の課題だと思っています。外国でお寿司を広めるために寿司認証制度をつくろうという話があったと思いますが、この議論での「変な寿司とかを出されると日本の価値観が失われる」という意見には僕は反対で、カリフォルニアロールみたいなものが生み出されたから、日本の寿司がグローバルなフォーマットとして広まったのだと思っています。ローカルに順応するようになって、初めて他の文脈の中で生きるので、本物の寿司のクオリティが万人に理解されたからではないと思います。かつて日本の漫画がアメリカに進出したときは、開き方をアメリカの漫画に合わせ、オノマトペもわかるようにちゃんと訳していたそうです。ところが、2000年くらいにオーセンティック漫画というのが出たときは、オノマトペを訳さず、日本語のままで、開き方も日本式でした。そうすることでコストも落ちるので売上が伸びたのですが、リーマンショック後は売れなくなってしまいました。ローカリゼーションを諦めたために、結局は一般性を獲得できず、マーケットを広げられなかったということだと思っています。そういうことはものすごく大事で、日本の建築界がグローバルな展開をしていくときには考えなければならない点だと思います。グローバル化のフォーマットをどうつくっていくかということを戦略的に考えて行く必要があると思っています。    最後に、設計施工に取り組む竹中工務店について今後期待することなど、コメントをお願いします。阿部 設計施工をやることで、いろんな意味で設計を通じて施工にフィードバックされることもあるでしょうし、逆もそうだろうと思っています。僕の立場から言うと、竹中工務店がやる設計と僕らのところがやる設計とでは、違うものも生まれている。設計のあり方の多様性を担保できるような設計界の実現を、皆さん方が支援してくださることを期待したいと思います。ゼネコンが全ての仕事をとって設計も全部やっていくような建設業界だと、多分よくないし、楽しくもないと思います。環境デザインする行為は主体が単一であるのは好ましくなく、いろんな立場の人が設計に関わっていけるということをどう担保できるかが重要です。そのことによって設計の多様性や次の世代の新しい可能性を守っていかなければならないので、力がある皆さん方が支援してくださればよいなと思っています。   本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則・伊藤宏樹・鈴晃樹・鎌谷潤)阿部 仁史(あべ ひとし)/建築家・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)都市・建築学科 教授 博士(工学)1985年1987年1988-92年1992年1993年1994-98年1998-02年2002-07年2007-16年現在主な著書主な作品受賞歴東北大学工学部建築学科卒業同大学大学院工学系研究科修士課程終了コープ・ヒンメルブラウ ロサンゼルス事務所阿部仁史アトリエ設立東北大学大学院工学系研究科博士課程修了博士(工学)東北工業大学工学部建築学科講師同大学助教授東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻教授カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)都市・建築学科長カリフォルニア大学ロサンゼルス校都市・建築学科教授同大学テラサキ日本研究センター所長プロジェクトブック(彰国社、2002)阿部仁史 FLICKER (TOTO出版、2005)House of the Future (A+U別冊、2017)宮城スタジアム(2000)苓北町民ホール(2002)菅野美術館(2006)ウィーン経済経営大学(2013)テラサキリサーチインスティテュート(2017)1996年 第14回吉岡賞(読売メディアミヤギゲストハウス)2002年 日本建築学会賞作品賞(苓北町民ホール)2009年 日本建築学会賞教育賞(デザイン教育の先駆的試み-国際建築ワークショップ)

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