DESIGNWORKS_Vol46
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Interview02本号は、都市的スケールの建築や、都市空間とダイレクトに接する建築を特集しています。インタビューでは、大阪市立大学にて近現代日本の建築史を研究されている倉方俊輔先生に本号で取り上げた読売テレビ新社屋と大阪市道梅田北野線歩道整備計画を視察していただき、建築と都市についてお話を伺いました。都市へのマクロな視点・人へのミクロな視点 まずは、ご覧いただいた建物について印象をお聞かせいただけますか。倉方 それぞれ用途や立地や規模は異なりますが、都市と建築という視点からは2つの共通点が感じられました。ひとつはマクロな視点における共通点で、どちらも都市的な構造・骨格に対して建築として対峙していることです。読売テレビは大阪ビジネスパークという先駆的なまちづくりエリアの一角に立地し、また大阪城という歴史的建造物や大阪城公園という広大な緑地に面する、明確な都市構造を持った敷地に建設された大規模なプログラムです。ここには、大阪ビジネスパークの軸・河川の軸・大阪城天守閣への軸という3つの軸が存在します。それに対して、水平庇が特徴的な低層部とダブルスキンガラスによる高層部に異なる軸性を導入することによって、しっかりと建築的に応答しています。その上で、ガラススクリーンで街に開いているという点も特徴的ですね。テレビ局というビルディングタイプは、その特徴的な用途をそのまま形にすると「閉じた大きな箱と高い電波塔」となることが多いのですが、それとは異なる新しい構成が提示されています。一方で阪急電鉄が大阪市と地域の協力を得ながら進めた梅田歩道整備計画では、自社の軌道の高架という長大な都市的インフラストラクチャーに沿うように、しかも梅田と茶屋町を結ぶ大阪市道に面して計画されています。この計画では、歩道を拡幅し、店舗ファサードを歩道に向け、加えてアーケードを設けることによって、単体の建物を超えた範囲でこれまでの高架下の風景を一変させています。高架下の飲食街というと「中廊下の両側に並ぶ店舗群」という閉じたものになるのが一般的ですが、ここでは建築が歩道を巻き込み外部に面して大きく構えているため非常に開放的に感じられます。ともに、大阪を代表する企業が大阪の主要な都市的骨格に向かい合うという点で、明確な共通点を有しています。 どちらの計画も、規模は異なれど建築と都市の文脈が相互に作用しあっていますね。倉方 その通りです。加えて、もうひとつの共通点はミクロな視点のもので、人と空間の関わりへの配慮です。マクロな視点というと、規模が大きいというだけではなく、外観や形に対する深慮にも反映します。反対にミクロな視点とは、規模が小さいというだけではなく、外観や形にあらわれない、そこにいる人々がどのような体験をするのかという視点を含んでいます。読売テレビはキロメートル単位の開発エリアに建つ大規模な建築でありながら、例えばオフィスの窓際に立っている人の視点で水辺がどう見えるかといったセンチメートル単位の課題を、サッシュのディテール検討としてミリメートル単位で検証しています。そのように、個人がいかに日常を過ごすのかという視点がスケールを横断して検証されていることに非常に共感しました。梅田歩道整備計画は、道路に面した開口を大きく確保し、歩道上の庇を明るく軽やかに設計するなど、建築的なデザインやカラースキームが個人の微妙に異なる感じ方に合わせて検討されている。結果として、「今日はちょっとワインでも飲んでみようか」「こんな料理があるなら入ってみよう」といった外部での経験と、道行く人々を眺めながら飲食する内部での経験、それらが交差する新しいコミュニケーション空間が生まれています。今回訪れた2つは用途や規模などが全く異なりますが、都市へのマクロの視点と人へのミクロの視点をしっかり持つという共通した態度が認められました。もしかすると、これが「竹中工務店らしさ」と言えるかもしれません。あらゆる建築を「住まい」と捉える 異なる規模の建築も同じ視点から捉えることができるという考え方は、非常に興味深く感じます。他にもそのような視点はあるのでしょうか。倉方 私自身は、用途にかかわらず「住まい」という視点を持って建築を捉えたいと考えています。あらゆる用途の建築において、住まいとして大切な側面を見つめるということです。そして、それには大きく4つがあります。倉方俊輔氏に聞く都市をつくる建築、建築をつくる都市Interview読売テレビ新社屋写真:古川泰造大阪市道梅田北野線歩道整備計画写真:母倉知樹©下村しのぶ
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