DESIGNWORKS_Vol46
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Interview05再生されることになります。竹中工務店が手掛けた旧山口萬吉邸の再生は素晴らしい事例ですね。あの再生スキームは、東京でなければ成立しなかったのではないかと思います。建築的にも、ディテールやバックヤードを含め全てが原設計をリスペクトしたデザインとして徹底されている。設計の力を強く感じられます。ただ、東京も大阪も、経済的状況やクライアントの気質などは基本的に似てきています。やはり時代的に、クライアントと設計者が情報やプロセスを共有しながら進めることが必要であるという点は共通しているでしょう。人から建築へ、建築から都市へ この情報共有時代における建築と都市の接点とはどのようなものなのでしょうか。倉方 分かりやすい建築的あらわれとして、中間領域によって内外を連続させる手法が取られることが多いですよね。今日見学した2つの建物でも庇やピロティによるデザインが印象的でしたが、それらは国立劇場などに見られるように、竹中工務店の伝統なのでしょう。単に全面をガラス張りにすれば内外が連続するわけではなく、逆によそよそしく分断されて感じることもある。中間領域を主題とすることで、内部と外部が心理的に親密に連続して感じられる効果を改めて確認できました。竹中工務店の作品は、そのような中間領域が全体から詳細にわたって丁寧に設計されており、ある種の日本らしさがあると言えます。声高には言わないけれど、するべきことをきちんと行い、ふと気が付いた瞬間にその価値に気づかされる、そのような繊細さです。それは意識をせずとも、人間の心に響くものだと思います。 都市的規模の建築においても、ディティールへの配慮が重要だということですね。倉方 一般的な「都市」という名の都市はありませんし、一般的な「社会」という名の社会も存在しません。全ては、具体的な人や場所から始まります。先ほど述べたように、それぞれのクライアントはそれぞれの土地と関係をもって活動しています。ですから、個別のクライアントや敷地に真摯に向き合い、「住まい」を共につくりだそうと設計を進めることによって、結果的に都市や社会とつながり、貢献するものなのだと捉えています。 最後に、竹中工務店あるいは竹中の設計について考えていらっしゃること、期待されることなどをお話しいただけますか。倉方 やはり、設計と施工の両方に携わっていること、そして双方が緊張感をもって対峙することで、相乗効果を生みだしていることが特徴ではないでしょうか。それによって、規模の大小に関わらず部分を繊細に作り込んだ設計ができるということは、建築に関わる業界の中でも特筆すべき部分であり、今後も大切にしてほしいと思います。 本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則 ・米正太郎・鈴晃樹・浮田長志・原康隆・田原迫はるか)倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)/大阪市立大学准教授建築史家1994年1996年1999年2010-11年2011年主な著書早稲田大学理工学部建築学科卒業早稲田大学理工学研究科建設工学専攻修士課程修了早稲田大学理工学研究科建設工学専攻博士課程西日本工業大学准教授大阪市立大学大学准教授『神戸・大阪・京都レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ 、2019)『東京モダン建築さんぽ』(エクスナレッジ、2017)など生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(Open House Osaka 2019)(https://ikenchiku.jp/)国立劇場※1 イケフェス大阪正式名称は「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」。大阪の魅力的な建築が毎秋一斉に無料公開される。2014年に始まり、現在は延べ4万人を超える人々が参加するイベントに成長。2019年にはOpen House Worldwideに日本で初めての加盟を果たした。
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