DESIGNWORKS_Vol49
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Interview02写真:Wu Chia-Jung本号は、群をかたちづくる建築をテーマに取り組んでいます。インタビューは東京大学千葉学先生にお話を伺います。コロナ禍のため、オンラインミーティングとなり、予定していた「武庫川女子大学公江記念館」と「立命館大学分林記念館」の2作品の見学は中止、リモートによる作品説明でした。これからの大学建築について、またコロナ禍以降の建築の在り方についてのお話をいただきました。 まず、説明した2作品についてコメントをいただければと思います。千葉 どちらのプロジェクトも、写真だけ見ると大学だと気付かないくらい、空間的にも贅沢ですし、大変美しくできていて、正直驚きました。大学の計画は、国立大学と私立大学とでは前提条件がずいぶん異なるとも思いますし、それぞれの大学が今後何を目指していくのかということによっても、計画の在り方が大きく変わってくると思います。その辺りの背景まで汲み取れていないかもしれませんが、武庫川女子大学公江記念館は、あれだけ自由で豊かなコモンを立体的に展開しているという点で、画期的なことですね。大学の空間に求められる冗長性、つまり長い年月にわたって色褪せない空間であると同時に、学生の主体的な学びを大きく後押しする空間にもなっているところが魅力的です。時間の経過により形作られる群としての大学 大学のキャンパス計画について、どのようにお考えですか。千葉 大学は完成形のない施設の代表みたいなもので、永遠に変わり続けていくことが宿命です。かつて槇文彦さんがおっしゃっていた「群造形※1」はその指針にもなると思いますが、中でも時間要素が大きいと思っています。つまり形の上での美学ではなくて、時間との対話が重層することで生まれる全体像の価値ということです。それは、代官山ヒルサイドテラスでも槇さんは自ら設計した建物に、ある種増築を繰り返していったわけですが、自分の建物を俯瞰的に捉え直し、そこに新しい解釈を加えていくことの積み重ねだったと思います。大学のキャンパスもそのようにして出来ているところが多いですね。世界の大学にも、元々のキャンパスのコアが偏心していったり、全体像が有機的に変わっていく例はいくつもあります。それがキャンパス計画の面白さです。だから大学の戦略として、将来像をどこまで決め、また逆に決めないのかという判断は一つの鍵になりそうです。例えばアメリカだと、スタンフォード大学はキャンパスの全体像や細部のデザインまで明確に決めてコントロールしてますが、カルフォルニア大学バークレー校は相当緩やかな計画で、常に過渡期のような様相を呈していて対照的です。つまりどのくらいの秩序を計画の初期段階に持ち込み将来的にどのくらい別の解釈がなされる余地が残されているかが、キャンパス計画にとって大きなファクターなのだと思います。そういう意味で、群造形というのは必ずしも素材とか、建物一つ一つのデザインコードを決めることではなく、展開の余地を残した秩序の応答関係みたいなものなのだと思います。武庫川女子大は、外装はキャンパス全体の一つのデザインコードになっている素材を踏襲しつつも、繊細な構造フレームや2層毎のダイナミックなスケール感という点では、全く新しい秩序を持ち込んでいる。こうした歴史の継承と全く新しい解釈が空間として蓄積していくことは、大学の空間の本質を見事に突いていると思います。武庫川女子大学では、大学と街との関係性もご説明いただきましたが、大学が街とどのように関わりを持つかというのもとても重要なテーマですね。私が所属する東京大学は、大学法人になってから、施設の運用にそれなりの自由度も生まれ、キャンパス内に外部のコーヒーショップやレストランを誘致するなど、学生にとってアメニティが高いキャンパスへと進化していきました。それはそれで素晴らしいことですが、一方で学生がキャンパスから出なくなってしまうという側面もあるんですね。そうすると、長年学生を支えてきた街の飲食店が立ち行かなくなり、学生街が廃れてしまうわけです。その点ハーバード大学は賢明な戦略を持っていて、コアの部分では「ハーバードらしさ」を守る空間を維持し、その周囲には最先端の学問に応じて随時開発していけるエリアが、さらに街との境界部分では、周辺の建物を随時借りたり買ったりして、研究施設や教職員、学生のための住まいにしています。常に伸縮するキャンパスの受け皿にもなるし、街にキャンパスが染み出していくことで、街とも親密な関係を築くことができる。都市型キャンパスにとっての重要な戦略ですね。武庫川女子大も、すでに街区を跨いだ展開をしながら、デッキによってキャンパス独自のネットワークも確保できている。街の成熟に合わせて融通無碍に街と関係を築いていくことができそうな点は、大学千葉学氏に聞く建築の力を考えるInterviewオンラインミーティングの様子武庫川女子大学公江記念館写真:古川泰造立命館大学分林記念館写真:母倉知樹
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