DESIGNWORKS_Vol49
5/36

Interview03と街との良好な関係を築いていく潜在力を感じます。また大学にとって、人と人とがいかに繋がるかということも重要なテーマですが、立命館大学分林記念館は、まさにそこに的が絞られています。日常生活の延長上に育まれる交流は大学生活に不可欠ですから、従来のような、ただ寝に帰るだけの場所を超えたコモンは触媒空間になります。そこに見られる空間の「ムラ」は、今後の交流を促す一つの鍵になるでしょうね。私達が計画した東京大学目白台インターナショナル・ビレッジも、「環境のムラ」がテーマでした。世界各国から集まる学生のための寮ですが、彼らにとって何が快適な環境かを一つの価値基準に定めることはできないんですね。部屋一つとっても、日本では南面採光が大事にされますが、むしろ南面じゃないほうがいいと言う人たちもいる。宗教上の違いから祈りの場が必要だったり、食文化の違いも、空間の共有にとって大きなファクターです。空気環境も同様で、暑い・寒いの感じ方も文化圏が違えば人それぞれ異なるので、最終的には場所の「ムラ」こそ人の繋がりにとって重要だということになる。20世紀が目指した建築的な価値は、見直さなきゃいけない時期にきてるんだと思います。郊外の大学における都市性   千葉先生が設計された工学院大学125周年記念総合教育棟ではキャンパスにおける群の在り方をどのように意識されましたか。千葉 工学院大学125周年記念総合教育棟に求められたプログラムは、基本的には講義室です。大小様々な講義室がたくさん集められた建物ですから、プログラムとしては凡庸です。それでも何か、大学の本質に迫れるようなことがあるのではないかと思って取り組んだ計画です。通常の郊外型キャンパスだと、建物と周りの緑地が対比的な関係となって、どこか牧歌的になってしまうのですが、大学にはやはり都市性が必要ではないか、また通常の講義室同士も様々なつながり方があるのではないかという問題意識が根底にありました。全体はL型の建物が4つ集まって構成され、その中心にはパサージュと呼ぶ風車型をした空地がありますが、そこに全ての部屋が面しています。パサージュは狭いところだと4mぐらいで、広いところでも7mに満たないくらいで、都市部にある路地に近いスケールです。だからどの講義室で授業を受けていても、窓の外を見ればすぐ脇で別の授業をやっていたり、先生が研究に勤しむ姿が身近に感じられる形になっています。このプロジェクトはコンペティションで選ばれたものでしたが、他の提案は、従来の片廊下型の建築を否定しているものが多かった。ああいう画一的な教室はよくないと。だから教室の形が有機的な形をしていたり、廊下がなかったりという具合に。ただ、新しい提案には、単に過去を否定するだけでなく、過去の再解釈という姿勢も必要なのだと思っています。それに僕たちの世代にとっては、学校での記憶は片廊下の空間に紐付いたことも多い。廊下で先生とすれ違った時の緊張感や、友達と走り回ったり、部活を休んで1人廊下で外を眺めたりとか。だから長年継承されてきた形式を引き受けた上で何ができるのかを考えたのです。   群造形という意味で、設計されたこの建物とその周囲にあるほかのキャンパスの建物との繋がりをどのよう配慮されたのでしょうか。千葉 このプロジェクトでは空地が周辺との連続性や関係性を司っています。パサージュを抜けていくとCキューブという建物のポーチに出てきます。別方向に抜けてくと、スチューデントセンターという食堂のある建物に至る。南側を抜けていくと、キャンパスの中で唯一残る空地ですが、将来計画との接続も視野に入れています。道路側は、キャンパスの外ですが、そこも工学院大学の土地なんですね。もしかしたら将来的には、街の中に染み出すキャンパスとしての展開もあるかもしれない。その布石としてこのパサージュは決まりました。4つのL型の建物はそれぞれ4つの小さな広場も囲っています。この工学院大学のキャンパスは斜面に建っているので平場の空間が少なく、大きく平らな広場は貴重な集いの場になると思いました。事務棟が入っている側は外部のお客さんのための玄関広場に、また丹沢の山並み側はテラスに、そして南門に近い駐輪場は、学生の一日の生活の起点と位置付けるなど、単純な造形ですが、広場やパサージュという空地がキャンパスに潜在している骨格や秩序を、より鮮明に浮かび上がらせることにもなっていると思います。立命館大学の話に戻りますが、配置計画も似たような観点で興味深いですね。これまでは寮は言わばキャンパスの端っこの方に建てられることが多かったと思いますが、ここでは将来計画用地に面した、キャンパスでも重要な位置にあります。寮が東京大学目白台インターナショナルビレッジ工学院大学125周年記念教育棟写真:Masao Nishikawa工学院大学125周年記念教育棟 配置図

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る