DESIGNWORKS_Vol49
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Interview05オンライン授業をやってみると、それはそれでいい面もたくさん発見できます。例えば出席率は倍ぐらいになりました。また学生からの質問も、ものすごく増えています。チャットに書き込む方式だとみんな結構気軽に書いてくれる。もしかしたら、僕たちが気付かないでいた様々なバリアが取り払われている面もあるのだと思います。たぶん今後は、オンラインの繋がりが後戻りすることはないと思うので、オンラインだからこそできることとリアルな空間だからこそできることを両方使い分けたり共存させることが当たり前になるだろうと思います。それはたぶん大学教育だけじゃなく、働き方や住まい方など、生活の様々な場面にも浸透するでしょう。こうしてリモートでできること、リアルでしかできないことが明らかになれば、建築の価値はより深く共有されることになるのではないかと思いますね。   コロナ禍以降、建築におけるリアルな空間・場所性をどのように意識されますか。千葉 難しいテーマですね。リモートが一気に進んで、どこでも仕事ができるという感覚は浸透したと思います。その状況は、逆な見方をすれば、場所の価値がより高まるということだとも言えます。その意味で、「場所性」にはより注目が集まるでしょうが、大事なのはその「場所性」が一体何によってもたらされているのかということを発見する創造的な目、観察力だと思います。それは、何か新しくものをつくる力と同じぐらい重要だと思っています。特に東京のような街では、コンテクストとは何かというのは、中々一言で表現できないと思いますが、これまでにも多くの建築家が独自の目線で東京のコンテクストを語ってきたように、数多くの解釈の積み重ねは、「場所性」の豊かさにも繋がるでしょうね。この都市をどう観察するかという観察眼は、本来は建築教育でもしっかりやるべきことですが。   竹中工務店について、どのように思われていますか。千葉 竹中工務店の作品は、空間の質からディテールに至るまで、実に質の高いものを作られているという印象はずっと変わらずに持ち続けており、ある意味非常に脅威だとも思っています。それを設計施工という仕組みの中で生み出しているのは、素晴らしいことですし、加えてそれを大きな組織として長く継続しているという意味での期待は非常に高いですね。是非今後も素晴らしい作品を世に送り出していただけるといいなと思います。また、僕は竹中工務店にはクラフトマン的な技術を尊重していることにも期待をしています。それは、竹中大工道具館の存在に象徴されていますが、建築という専門領域、日本の建築文化が決して失ってはいけないことじゃないかなと思います。そういう面も含めて、日本の建築界を支え続けていただけたらと思います。   本日はどうもありがとうございました。(プレゼンテーター:松本伸洋・永井務・堀良平・地田聡 聞き手:水野吉樹・関谷和則・米正太郎・松波圭亮・奥村崇芳)千葉 学 (ちば まなぶ)/建築家 東京大学大学院工学系研究科 教授1985年1987年1987年1993年1993年1998年2001年2001年2009年2013年2016年2017年2018年主な作品主な著書  東京大学工学部建築学科卒業東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了株式会社日本設計ファクター エヌ アソシエイツ共同主宰東京大学工学部建築学科/キャンパス計画室 助手東京大学工学部建築学科安藤研究室 助手東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授千葉学建築計画事務所設立スイス連邦工科大学(ETH)客員教授東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授東京大学副学長ハーバード大学GDSデザインクリティーク東京大学キャンパス計画室副室長日本盲導犬総合センター(2007年日本建築家協会賞、2009年日本建築学会賞(作品)受賞)大多喜町役場(2013年ユネスコ文化遺産保全のためのアジア太平洋遺産賞功績賞)工学院大学125周年記念総合教育棟(2014年村野藤吾賞)rule of the site-そこにしかない形式(2006年)住吉の長屋/安藤忠雄(2008年)Jpeak Manabu Chiba (2014年)人の集まり方をデザインする(2015年)※1  群造形建築家・槇文彦が提唱した設計思想である。集合体に関する三つの典型(①コンポジショナル・フォーム、②メガ・フォーム、③グループ・フォーム)に類型化する考え方。オスカー・ニーマイヤーによるブラジリアの都市計画や丹下健三の都市デザイン手法を相対化した。「代官山ヒルサイドテラス」がグループフォーム(群造形)に基づいた代表的な作品例である。

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