02Interview三栄建設鉄鋼事業本部新事務所写真:母倉知樹リバーホールディングス本社写真:ナカサアンドパートナーズことなどが多かったと思いますが、そういったものからもっと全体のレイアウトを考えるとか、シミュレーションをベースにして全体の形態が決まってくるとか、どんどん建築のもっと深いところにコンピュテーショナルデザインが入っていき、我々が頭の中で考えていたことが、コンピューターの中で処理され可視化された上で共有されていくような段階に近づいていると思いますね。ただ、今日設計者のお話を伺って、それをやるには奇跡のコンビネーションが絶対必要で、それが重なり合うことで初めて建築としてアウトプットされるっていうところが現在地であると思います。セシル・バルモンドスタジオでの試行錯誤杉田 これまでの設計では、設計者の頭の中で創造性と現実性の二面性をもって設計していたと思いますが、コンピューテーショナルな設計ではそれを別々のものとして扱うのが難しいため、新しい設計手法が必要になるのではないかと思っています。私が10年ほど前にセシル・バルモンドのスタジオを通して研究していたのが「エージェントベースデザイン」で、コンピューテーショナルな手法でゼロから建築をつくれるかをセシルと研究していました。具体的には人がどういう風に集まってアクティビティが起きているのかをコンピューターのエージェントを使って再現してみるという試みでした。生物の中のフェロモンや匂いのような余韻みたいなものでほかの人たちを動かすことは実際に起きているので、人間のアクティビティの余韻みたいなものがほかの人たちの行動を決めているのではエージェントベースデザインを用いて設計されたプロジェクト写真:杉田宗ないかという仮説を立て、建築をつくるプロセスに使ってみようと考えました。「エージェントベースデザイン」ではアクティビティの余韻が次のアクティビティに影響を与え、空間の中にアクティビティの蓄積が残っていきます。その蓄積を建築部材に置き換えることで建築の組織をつくりだすプログラムを開発しました。このプロセスの中で生まれてくる部材にも一定の知性を持たせ、周囲の部材の向きをチェックして自らの向きを決定します。また、自らがガラスになるか、木材になるかといった素材を決定するプログラムも組み込み、自律的に建築が立ち上がってくるアルゴリズムを考えました。各エージェントがより建築的に妥当性のある判断ができるプログラムを取り入れれば、もっと建築らしいものができ上がっていくと考えていたのが2010年のことです。 物ができて関係性ができるのではなく、関係性そのものが立ち上がってくるような感覚でしょうか。杉田その通りです。同じ2010年にこのプログラムを用いてパビリオンを計画しました。同じエージェントベースデザインを用いていますが、もう一段階進んで、木材で組み立て可能なプログラムを開発しています。この経験から感じたことは、コンピューテーショナルデザインがやるべきことは、私たちが今頭の中でやっていることではなくて、今考えてないことをコンピューターと一緒に新しく見つけることではないかと思います。ただコンピューターは勝手にはやってくれないので、設計者がそのプログラムや道筋をつくることが必要になってきます。杉田宗氏に聞くコンピューテーショナルデザインの「フィールドを耕す」杉田 まず、視察した「三栄建設鉄鋼事業本部新事務所」は、ボロノイ図が面白いということはみんな頭のなかでは考えているけれども、ほんとにその空間の中に入ってみると、やっぱり今までの空間とは全然違うものがあったというのが感想です。ボロノイ図で分けられたそれぞれのセルの中の活動※1がセルとセルの境界面の仕上げの設定と連動しているのか、そして利用者の体験がどのように設計されていて、どのように実現しているか、一日過ごして感じてみたいなと思いました。また、「リバーホールディングス本社」の説明も含めて、今回の見学と説明で感じたことは、コンピューテーショナルデザインがもう表層のモノではなくなったなということです。今まではファザードでのパターンを検討する本号は、コンピューテーショナルデザインをテーマに特集を組んでいます。ツールの変化が急速に進む現在において、海外での学びや勤務を経て、現在は広島工業大学や設計事務所での活動において、コンピューテーショナルデザインを積極的に実践されている杉田宗先生をお迎えし、「三栄建設鉄鋼事業本部新事務所」を視察いただきました。また、「リバーホールディングス本社」を紙面にてご説明し、当社大阪・東京のコンピューテーショナルデザインの取り組みを紹介しました。深化するコンピューテーショナルデザイン 始めに「三栄建設鉄鋼事業本部新事務所」と「リバーホールディングス本社」の2作品について感想をお聞かせください。Interview
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