04Interview広島工業大学でのデジタルデザイン系授業の様子写真:杉田宗プログラミング的思考を根付かせることで、課題への取り組み方が変わってくると思っています。その思考が当たり前になることで、その先に「新しい働き方」が実践されていくのだと思います。地方での中小企業とのBIM推進杉田 先ほど述べた繋ぐ役割をもう少し広く実践的に行っているのが、「ヒロシマBIMゼミ」というものです。2017年から始めた勉強会がベースになっていますが、BIMの活用と普及・推進、BIMを活かした横断的なコラボレーション、建築における新たな情報技術の研究という3つの目標を掲げて活動しています。広島などの地方都市においては中小企業と共に実践することに可能性があると感じています。大学の教育だけでは学生が就職した後の活躍の場が生まれないため、広島のような地方都市の建設業界の変化にも関わっていきたいと思っています。一昨年、2つ目の目標である横断的なコラボレーションに本腰を入れてやっていきたいと思っていたら、建築BIM推進会議が立ち上がり、国の動きにもなってきて、この波に乗らない手はないなと思っています。私たちの強みは、大都市や大企業で実践されることとは違う、中小企業と共に実践することであり、BIMを使うことで「新しい働き方」がどう変わっていくのかを考えながらいろいろな試みにチャレンジしています。昨年進めたフェーズ1では、BIM活用による設計の効率化、作図の自動化、異なるプラットフォームでの情報共有といった3つをテーマに、中小企業や実務者だけではなく、杉田宗研究室ヒロシマBIMプロジェクトで開発した協働モデル写真:杉田宗の学生たちも加わり、ノウハウを調べたり、独自のツールをつくりながら進めました。それらのノウハウやツールはブログで公開もしています。例えば3つ目のテーマでは、Revitで統括モデルをつくりながら、あえてArchiCADを使用する設計者に参画してもらい、どこまで連携できるのかを試しています。中小企業同士が繋がって実務を行う場合は円滑な情報共有のための調整が課題になります。フェーズ1の大きな成果の1つは、協働モデルの作成です。アンリアルエンジンでBIMデータを統合して表示することで、異なるプラットフォームをひとつのデータとして扱うことが可能になります。その背景には、設計者が自身の領域の川上・川下の知見を持ち、その領域にかかわる関係者にも扱いやすい情報を提示することが必要になっていると感じていて、その一つの形が今回の協働モデルであり、先ほど述べた繋ぐ役割の実践だと思っています。こういった実践が、これからの働き方を変えることにつながると思っていますし、BIMを用いる一番大切なことではないかと考えています。維持管理からのクリエイティビティ杉田 BIMの活用先のひとつとして「維持管理へのBIM活用」があると思っています。維持管理のBIM活用はいろいろなところで語られていますが、まだまだ具体性がない。その具体性が現われた瞬間に、みんな目の色を変えてBIMに取り組むのではないかと思っています。BIMがどのようなメリットとして返ってくるのかがわからない、だから取り組まないという人が大半ではないでしょうか。デジタルメンテナンスの研究写真:杉田宗建築は、つくった瞬間に悪くなっていくことや、その悪くなっていくところをお化粧で隠していくことを続けても20年後には思ってもいないようなことになる。この現実を建築に関わる全体が正しく理解して、逆にそれをクリエイティブな生活や活動に生かしていくことをやらなければいけないと考えています。そこで「クリエイティブメンテナンス」という分野をつくろうと活動しています。その一角には、BIMを活用した「デジタルメンテナンス」があると思っています。ロボット掃除機の研究からスタートしていて、ロボットをBIMモデルの情報をつかって動作させ、清掃の効率化を行うだけでなく、毎日の掃除の中で実空間をスキャニングさせることでそれをデータベース化しています。状況に応じてロボットの動作を最適化したり、例えば明るさの可視化のように様々な空間情報を蓄積し、活用することが可能になるのではないかと考えています。このように、維持管理をポジティブにとらえて、その行為から運用段階の情報を集めていくことがデジタルメンテナンスです。広島工業大学では新たに建築保全業務ロボット研究センターという組織を立ち上げ、建築だけでなく、機械分野・情報分野の先生方にも参画してもらい活動しています。現在は建物内の位置情報を取得するシステムの構築を行っています。私の理想像は、メンテナンスを行うことで人が建築とも近くなり、人と人も近くなるというシステムにまでつなげていきたいという想いがあります。さらには、建築を人間とロボット双方が使う時代になっていた先に、建築のデザインを考え直さなければならない時が来ると思っています。
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