DESIGNWORKS_51号
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Interview052年前期のデジタルファブリケーションで制作するスツール写真:杉田宗(聞き手:水野吉樹・関谷和則・米正太郎・浮田長志・奥村崇芳・原康隆・藤原健太)z杉田宗研究室では毎年3年生がパビリオンを制作する写真:杉田宗   ありがとうございます。最後に、設計施工に取り組む竹中工務店へのコメントをお願いします。杉田 2010年にコンペをお手伝いするかたちで大阪本店で働く機会を得た際、夕方から夜にかけて行われていたデザインレビューが強く記憶に残っています。ご年配の方から若手まで数時間にわたり議論を続けられていて、そのパワーに衝撃を受けました。日本の建築をつくってきたのはそのパワーなんだと思いますし、それを会社の中で20代、30代が感じられる環境がある組織だということが最大の強みなのではないかと感じました。設計施工は海外では完全に分離されていてビジネスモデルとして珍しいですし、これほど熱く建築をつくっている集団は世界にも他にないのではないかと思います。私は地方都市を基点に、中小企業と共にボトムアップ的に取り組みを続けていますが、中小企業が追い付けない蓄積やパワーを今後も100年・200年と続けていってもらいたいと思います。      本日はどうもありがとうございました。※1 セルの中の活動三栄建設鉄鋼事業本部新事務所(P06〜09参照)で用いられた立体ボロノイというジオメトリーによって多面的なつながりを持つように構築された各空間(セル)の中での活動のこと。立体ボロノイは、泡が充填されて拮抗した状態で発生する自然造形を示す。※2 ETH(エーテーハー)スイス連邦工科大学チューリッヒ校を示す。1855年に創立され、世界120カ国から集まった約20,000人が在籍しており、自然科学、工学、建築などの分野で教育、研究を行っている。デジタルファブリケーションの分野でも最先端の研究と実践を行っており、「DFAB HOUSE」プロジェクトでは3Dプリント技術で1:1スケールの空間を製作している。※3 MX3D(エムエックススリーディー)金属3Dプリンターを開発しているオランダ・アムステルダムのスタートアップ企業のこと。WAAM(Wire and Additive Manufacturingの略、ワイヤーとアーク溶接を用いた金属積層造形技術を示す)と呼ばれる3Dプリンティング技術を用い、金属粉末にレーザービームを照射して固めるSLM(Selective Laser Melting)という手法と比べて材料の単価が非常に安価で、印刷速度にも優れている。当社ではMX3Dとの協業で大空間建築物の「接合部」の試作と実プロジェクトへの適用に向けた研究開発を行っている。杉田 宗 (すぎた そう)/建築家 広島工業大学環境学部建築学科デザイン学科准教授2004年Parsons School of Designインテリアデザイン学科卒業Jeffery McKean Architects(米国、NY)勤務Rogers Marvel Architects(米国、NY)勤務MAD(中国、北京)勤務ペンシルバニア大学大学院建築学科卒業(株)杉田三郎建築設計事務所勤務東京大学Global30国際都市建築デザインコースアシスタント広島工業大学環境学部建築デザイン学科 助教広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授建築情報学会常任理事2004-05年2005-06年2006-07年2010年2010年-2012-14年2015-18年2018年-2020年-主な作品gathering (2010)かも保育園ハッチェリー (2019)山根木材福山支店 (2021)主な著書 「耕す」ことが育む奇跡   「新しい建築」と「新しい働き方」の混ざり合いが重要であるという観点にもう少し深く踏み込むと、リアリズムの追求から「新しい働き方」の分野で革命的なことが起こるのではないか、そしてその先に「新しい建築」が生まれてくるのではないかと感じます。杉田 そうですね。私のこれまでの活動も広島という地方都市を舞台に、ボトムアップ的な活動を続けてきた経緯があります。上から業界全体を引っ張る立場とは真逆ですが、下から底上げする活動です。しかしその2つが存在して初めて大きな変化をもたらすことができるのではないかと思っています。大学でのデジタルデザインの教育や、中小企業との協業が私のフィールドで、その中でもいろいろと実践しているのだから、みんなもやってみましょうよと、底上げにつながれば良いと思っていますし、そこに人生をかけるのも面白いと思っています。それは三栄建設やリバーホールディングスのような奇跡が起きるための素地を耕しているといえるのではないでしょうか。モデリングソフトの前にグラスホッパーを用いてプログラミングを学んでいるように、中小企業同士を協働モデルでつなぎあわせ、コラボレーションの機会を増やしていくように。それらの取り組みが地方都市で実現できたなら、日本のどの場所でも、やらないという理由にはできないはずです。「建築情報学へ」(建築情報学会監修 、2020)

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