DESIGNWORKS_No52
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02InterviewInnovation Garden OSAKA Center(コニカミノルタ高槻新棟)写真:古川泰造仲 「コニカミノルタ高槻新棟」は、働き方としての最終形をあえて固定せず、竣工後もチューニングを繰り返すと聞いています。チューニング過程でさまざまな発見を促しそうな場所が、建物の随所に予め仕込まれている、そこがよいと思いました。矩形平面を重ねただけの無個性なオフィスビルに比べて、遥かに面白いことがこの中には起きてくる、そんな期待があります。「シオノギ教育研修センター/PORT」に関しても同様に、研究所新築、既存オフィス改修、そして今回の研修所新築という一連の流れに、チューニングの積み重ねを感じます。これまでのオフィスワーカーは、家族や家庭を犠牲にして、会社のためにバリバリ働くことが是とされてきました。けれども最近は、自分はもちろん家族や家庭も大事にします。   はじめに、本日見ていただいた2作品について感想をお願いします。Innovation Garden OSAKA Center(コニカミノルタ高槻新棟)写真:ナカサアンドパートナーズ個人としての多様性が尊重され、ウェルビーイングが提唱されるなど、より人間らしく自分らしく生きることが普通の価値観になってきました。その多様性を考えるさいに重要なのは「自然とともにあること」です。近代において建築は、人間を自然から分離してしまいましたが、社会が成熟して、再び自然回帰しようという欲求が増えてきたのです。執務スペースについても、空調機器などによって室内を一年中同じ環境にする時代ではありません。暑い寒いといった空気的偏差は、むしろあるほうがよい。自然の力を借りた多様な場所が随所に偏在し、個人が状況に応じ自由に選ぶことができる、そのような建物で働く方が気持ちよいじゃないですか。そのとき「自然」とは必ずしも植物でなくてもよい。自然というより外部性、外部への抜けを感じられることが重要です。自然と一緒に働く場所が随所にあること。「コニカミノルタ高槻新棟」の内部空間を歩きながら、春にはバルコニーで桜を観ながら仕事してみたいとか、様々な場所で様々な働き方のイメージが次々と沸き起こりました。これからの未来を、働く人が思わず考えたくなるような空間構成になっていますが、オフィスにはそういう気づきが大事だと思います。過去10年、20年の試行錯誤を経て、一般的な日本のオフィスビルも場所の多様性は創られつつあります。その多様性に自然が関与する段階になると、多様性は自然と共に進化し、本当にワクワクするようなワークプレイスが生み出されるでしょう。特に日本には四季がありますから、雨の日はカフェテリアでお茶でも飲みながらしっとり仕事しようとか、バルコニーで夕陽をながめつつじっくり考えてシオノギ教育研修センター/PORT写真:平井広行   仕事の「生産性」という概念は、一般にいう「効率性」とは異なるものですか。仲 戦後の日本は、アメリカという大国をモデルにして、経済的な効率性を重視して必死で頑張ってきました。国家や国民が生き延びるためにそれは必要なことではあったけれど、気づかぬうちに効率性が手段ではなく目的になり、絶対的価値を持つようになってしまいました。けれども、ひたすら仕事だけを頑張れば、個々の作業効率はアップするかもしれませんが、全体的な生産性は高くなりません。経済学でいう「生産性」の概念とは、分母がインプットで、分子がアウトプットのことです。お金、人、モノ、時間などは「インプット」として投入される諸要素ですが、効率性を重視してこれらを最小化することを追求すれば、ある程度は生産性が向上するでしょう。けれども、人、モノ、時間などの資源は有限ですから、これらを最小化するにも限界があります。だから僕は、分子である「アウトプット」の方を重視したい。つまり、仕事の質や成果を高めること、より創造的で価値あるものを作ることです。戦後の日本においては、作るべきものが明確だったから、効率を高めることは正しい選択みようとか、朝から晩まで室外で働く日があったり、室内で働く日があったり。だから外部に設置される家具も、リフレッシュではなく本格的に働ける仕様が望ましい。いずれにせよ、働き方は多様な方が楽しいし、個人のモチベーションも向上するので、結果として、仕事の生産性も向上することになります。効率性から、生産性へ写真:やまざき よしのり仲隆介氏に聞くワークとライフがひとつになる未来へ本号は、オフィスをテーマに特集を組んでいます。オフィス空間だけではなく、働き方そのものがコロナ禍によって劇的に変化する現在において、京都工芸繊維大学で教鞭をとる傍ら、様々な機関においてワークプレイスデザインの研究・啓蒙活動も実践されている仲隆介先生をお迎えし、「Innovation Garden OSAKA Center(以下:コニカミノルタ高槻新棟)」「シオノギ教育研修センター/PORT」を視察いただき、これからのオフィス、働き方についてお話を伺いました。自然が多様性を進化させるInterview

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