引張02Interviewタクマビル新館 集成材を見せるダブルスキン写真:古川泰造Pタクマビル新館 CLTと鉄骨フレームの接合な場所で、素材の制約と付き合いながらいかに意匠として木を見せるか、そのしのぎ合いを見て取ることができました。これは他の掲載作品にも共通することで、いずれも新しい木造建築としての技術的説明が可能なだけでなく、その場所に木を用いて建てること、その佇まいをつくることの意味を建築的に説明できるプロジェクトであるところが素晴らしいと思いました。例えば、三角形グリッドと木カテナリー構造による無柱の大空間が特徴的な武庫川女子大学カヌー部部室棟は、BIMの活用や構造的な挑戦が重要な特徴として挙げられます。けれど一方で、町に溶け込んで風景となるかたちや、カヌーという細長い形状の道具と建築の関係、厳しい練習を終えた部員たちが寝転がって見る景色といった、町・カヌー・部員の物語を根源にして設計されたことがよくわかる作品です。新しい技術は現在を記録し、過去と繋がる小見山竹中大工道具館収蔵庫増築は、法隆寺金堂の柱が目前にそびえる旧館(現収蔵庫)への増築という条件を踏まえ、時代によって異なる木の用い方を対比的に表現するというコンセプトに共感しました。というのも、CLTは今の時代ならではの技術だからです。日本では戦後に雇用を生むため集中して木が植えられたのですが、それらは現在伐期を迎えています。そのため、日本においてCLTは木材を大量に使う手段として注目されているという側面があります。しかし、木材生産性だけでなく生物多様性など様々な価値とのバランスから森林のあり方も見直されているところで鉄骨柱引張材 せん断金物(ドリフトピン)無収縮モルタルCLT壁パネル支圧せん断圧縮応力束せん断引きボルトなし支圧鉄骨梁武庫川女子大学カヌー部部室棟写真:河田弘樹あり、今のような「杉材を大量に使うべき時代」が将来的にもずっと続くとは限りません。以前訪れた竹中大工道具館では、当時の植生と刃物の切れ味によって建築の表現が変遷してきたという展示が印象的でしたが、建築には資源の状況に応じて変化せざるを得ない部分が必ずあります。実際、木をたくさん使う構法は少し前まではなかったし、だからと言ってそれがずっと続くわけではなく、いずれ訪れるかもしれない木材が不足する時代にはそれに適した建て方になるでしょう。そうすると、CLT建築はこの現在の技術や資源状況を思い出させるものになると予想しています。私自身は建築の設計をするとき、本を書くように、記録をするように設計したいといつも思っています。その時代の技術をなるべく直截的に建築に用いて、後に見返したとき当時のことがわかるような建築がつくりたい。そのような目線で見ると、竹中大工道具館収蔵庫増築は、旧館と合わせて時代を表す建築であると思いました。 新しい構法を用いた建築が時代の証として捉えられる一方、古くからある日本建築の技術は今後も小規模の建築で残り続けると思います。小見山 そうですね。伝統的な技術と最新の技術を合わせた建築には大きな可能性があると考えています。私が2020-2021期の編集委員を務めていた日本建築学会の『建築雑誌』(2021年6月号 特集18 建築生産をアップデートする)ではBIMを活用する宮大工の方を紹介していますが、そこでは大工技術とデジタルの相性の良さが語られています。また、写真:衣笠名津美小見山陽介氏に聞く木がつくる未来の建築と社会小見山竹中工務店は早くから現代木造建築に関する様々な技術を開発していますが、既存の手法にこだわらず、常に新しい取り組みをしていることが伝わる作品でした。タクマビル新館では、鉄骨フレームとCLTの接合部に引き抜き金物を用いず、CLTに不要な力を負担させないアプローチをとっていますが、これは接合部を金物とコンクリートで固めたパークウッド高森とは真逆の発想ですよね。これからも多様な手法が編み出されて、木造の世界はどんどん切り拓かれていくのだろうと思いました。次に感じたのが、建築としてあるべき姿を何よりも初めに考えているということです。木造建築として成立させる技術的な挑戦だけではなく、木を見せるためにたくさんの建築的な工夫をしていますよね。木は外装に用いるには難しい素材ですが、ダブルスキンの中で水平ルーバーとして用いることで、グラウンドレベルからも木の素材感をはっきりと感じさせています。その他にも様々本号は「木造・木質建築」をテーマに掲げ、関連する作品を特集しています。巻頭インタビューでは、CLT活用に特に造詣の深い京都大学小見山陽介先生に本号で取り上げた「タクマビル新館」を視察していただき、建築意匠設計・構法技術史の観点から木造・木質建築の可能性や今後の建築と社会についてお話を伺いました。目指すべき空間のための多様な木活用 まずは、視察いただいた「タクマビル新館」について感想をお聞かせください。Interview
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