DESIGNWORKS_No53
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04InterviewKingsgate House 外観写真:Horden Cherry Lee Architectsむしろそれを使わざるを得ない。一方、日本では、その新しい技術に伝統的な技術を絡めることで独自の構法が生まれることが十分に考えられます。木活用のハードルと追い風   海外のCLT建築は木を見せない場合も多いですが、日本は構造材として使うCLTはそのまま表しにするのがよいという雰囲気が強いと感じます。小見山 それが難しいところですよね。私がCLTに関心を持つようになったきっかけは、ロンドンのHorden Cherry Lee Architects在籍時代、Kingsgate Houseという7階建ての集合住宅に用いたことです。このプロジェクトの構造体に木が選ばれた理由は、とにかく建築を軽くするためでした。敷地の特性上、静かにかつ短工期で施工する必要があったため、既存の建物の基礎は残し、同じ重さでより高層の建物を建てようとCLTが採用されました。そういうわけで木を見せる必要はなかったし、実際にどこも表しにはなっていません。このような経験をしてきたので、見えないところに木を使うことに対する抵抗はありません。ただ、今の日本ではCLTは表しにしなければ見合わない価格だと思いますし、構造材として割り切って使うにはもったいない材料だということも理解できます。日本のCLTは、構造材と仕上材の両方を狙っているためにむしろ使いづらい面もあると思います。   木造・木質建築にとって、木にかかるコストが少なからず障害となってしまいます。Kingsgate House 施工中風景写真::小見山陽介小見山 前述のプロジェクトに携わっていた当時、現地ではRC造と木造でコストはほとんど変わりませんでした。今の日本では、木をたくさん使いたいと思う場面が多くある一方で、木を使うほどコストがかかるというジレンマがありますね。CLTについても、より普及が進めば生産者側は価格を抑えることができますが、今後も更なる需要があるか様子を見ているのではないかと思います。建築をつくるというのは非常に特別なことだから、価格だけにこだわらずその空間に必要な素材を選択できるようになればよいのですが、実際のプロジェクトでは難しいですね。   私たちの場合、建築主がエンドユーザーであることは多くありません。そのため、コストやメンテナンス性がより重視され、建築主の環境や流行への意識から木の活用を強く要望されて初めて選択肢に挙がるというのが実情です。木を用いることのメリットとして、他にどのようなことがあると考えますか。小見山 竹中工務店が中心となって運営している「キノマチウェブ」※3では、「キノマチから生まれるいいこと10」のひとつとして「物語から愛着が生まれる」ということが紹介されていました。木は、生産者や生産地、その土地の風土や風習といった、背景にある物語を伝えやすい素材です。特に、本社ビルのような建築ではそれが会社のイメージにもつながります。木質・木造がもたらした「建築材料に背景を見出す」という傾向は、木以外の材料においても背景を語りやすくなるというよい流れを生んでいます。例えば、無機質で単一なイメージのあるコンクリートも、実際には地域ごとにそれぞれ特徴がありますよね。シラスを細骨材として用いるコンクリートのように、地域性の強い素材は今後より注目されていくと思います。広がり続ける構法の可能性   今、木質材料ではCLTが注目されていますが、次はどのような材料が現れるのでしょうか。小見山 それを考えるためには、現在CLTが使われていることの本来の意味に立ち返る必要があります。例えば硬くて変形しない軽量な面材をつくりたいということであれば、もっと効率のよい方法があるのではないでしょうか。具体的には、ラミナにツーバイフォー材を用いる例は既にありますし、より隙間を開けて木材を集成する、ということが考えられます。海外ではCLTは木材を使いすぎているのではないかという議論があり、ラミナを一部を抜いたり、抜いた部分に断熱材を挟んだりと、もっと使い勝手のよい材料を目指して開発が続けられています。今のCLTが完成したプロダクトとは限らないということです。また、CLTに代わる材料が現れたとしても共存は可能だと思います。CLTに似た素材に、接着材の代わりに釘で接合するNLT(Nail Laminated Timber)や、木ダボを用いるDLT(Dowel Laminated Timber)がありますが、海外では条件に応じて三者三様の需要があるそうです。日本でもCLT以外の木質材料で試験をしてより利用しやすくしようという動きがあるため、いずれはもっと多くの種類の材料が使われるようになるかもしれません。

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