Interview05御堂ビル奈良井宿でも随所に発見できることですが、雨の流れ方、風の吹き方、熱い空気の登り方といった自然のふるまい、繰り返されることで住民に身体化され、条件が整うと動き出す人のふるまい、道に沿って地域独特の構えで並ぶ建築のふるまいなど、ふるまいには大きく分けて3つの様態があります。そしてふるまいにはリズムがあります。光のふるまいはすぐ変わりますが、熱のふるまいは少し緩慢です。人のふるまいには朝起きて昼に仕事して夜になれば寝るという1日のリズムや、祭のような1年周期のリズムもあります。建築は50年とか100年のリズムでふるまう。そういう多様なリズムの重ね合わせとして理解できることはたくさんあります。それぞれのふるまいが十全に発揮されるよう調整するのが建築的知性です。どこかの金持ちが「その振る舞い俺が買うからお前たちはやっちゃだめだ。」とは言えない、平等なんですね。雨や太陽は誰にでも等しく降り注ぐふるまいだし、長い時間かけて培われてきた人のふるまいや、形式に定着された建築のふるまいやその反復による町並みは、一個人に独占されることはない。ここで建築の仕事した方が絶対に面白い。再帰する自己、歴史という他者 空間やマネーを介した間接的な繋がりよりも、人や事物がダイレクトに衝突することで生まれる価値に魅力を感じます。塚本 斉藤幸平さんの受け売りですが、カール・マルクス※3によると、労働力が商品になり、「商品が商品を生み出す」段階になって資本主義が完成する。昨日まで畑を耕していた人が、現金収入を求めて都市に出てきた。それは農村の連関からの解放で、都市はそれを許す空間だったわけですね。はじめ資本主義は仮説でしかなかったけれど、そこでのふるまいが反復されることで、人々に内面化されていく。内面化されたふるまいを、今度は自らの同一性を確かめるものとして再生産するという、我々の自画像形成に深く入り込んでいる再帰性を相対化するのは難しい。産業社会的連関に依存した暮らしに馴れてしまった私たちが、その暮らしの中でつくり上げた自画像は、意外に強く私たちを自己規制しています。そして、そこに寄り添うように産業は言います。「地球の問題は私たちがスマート技術で解決するから、あなたたちは変わらなくていい」と。でも人を馬鹿にしてはいけない。地球のことを考えたら、産業への過度の依存はやめ、人が変わらなければいけない。だから奈良井プロジェクトのように、歴史的な町並みや建物に取り組むことは重要です。古い建物は、時短で生産性を高める言語で話してくれないから、今の建設現場の頭では何言っているか分からない。でも付き合っているうちに、自分たちが今どんなところに生きているのかが見えてきます。そして、そういう古い建物に定着された建築的知性を操っていた人々は、2022年の私たちとはずいぶん違う暮らしをしていたことも。それが自分たちの自画像を相対化する機会です。人間が変わらなければ、地球環境問題は解決には向かわないのですから。 最後に、竹中工務店設計部に期待する点を教えてください。塚本 竹中工務店は、仕立てのよいスーツみたいな、優れた都市型建築をつくってきま(聞き手:米正太郎・藤井洋介(元社員)・吉本晃一朗・原康隆 BYAKU Narai -歳吉屋-にて)※1 「建築家無しの建築」バーナード・ルドフスキー世界各地の無名の工匠たちによる風土に根差した土着建築を一堂に会してパノラマ的に紹介した図集。※2 アルド・ロッシの「タイポロジー」概念著書「都市の建築」において、建築を都市形態に結び付ける概念として、あるいは建築の学問性を担保する基本理念として、類型の概念を捉えなおした。※3 カール・マルクスプロイセン王国出身の哲学者、思想家、経済学者、革命家。社会主義及び労働運動に強い影響を与えた。マルクス主義の祖。塚本 由晴 (つかもと よしはる)/建築家、東京工業大学大学院 教授1965年1987年1987-88年1992年1994年2000年-現在神奈川県生まれ東京工業大学工学部建築学科卒パリ建築大学ベルビル校(U.P.8)貝島桃代とアトリエ・ワン設立東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)同大学大学院准教授東京工業大学大学院教授主な作品「ミニ・ハウス」(1999年、第16回吉岡賞)「ハウス&アトリエ・ワン」(2007年度グッドデザイン賞)「タマまちや」(2013年度グッドデザイン賞)「みやしたこうえん」(2011年)「尾道駅」(2019年)主な著書 コモナリティーズ(共著、LIXIL出版、2014年)Behaviorogy(Rizzoli New York、2010年)メイド・イン・トーキョー(共著、鹿島出版会、2001年)した。御堂ビルのような、きめの細かい壁面があって端正な窓が反復する建築は本当に色気があります。窓は光や風や熱など自然の振る舞いが建築の中で一番集まるところです。そこに人のふるまいも寄り添い、反復されて街並みを引き締め、人々の暮らしを支える地域の文化になる。単体の作品が、御堂筋の街並みを先導する規範を示すことで、まちづくりにもつながっていく。そういう都市建築の文法を語らずして語る「ダンディズム」が竹中工務店であり、私がこれからも期待するところです。 本日はどうもありがとうございました。
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