DESIGNWORKS_55号
4/36

02Interview北海道地区FMセンター写真:佐々木育弥写真:酒井広司北海道大学医学部百年記念館建築設計: 小澤丈夫+小篠隆生実践が、蓄積されています。それらが、積雪寒冷地における非住宅系木造建築の新しい空間スケールとして共有され、設計者がその中で様々な工夫をするようになってきています。私の研究室で設計した北海道大学医学部百年記念館では、地産地消で北海道産の木材を使いつつ、象徴的な120mm角の一般流通材を4本まとめた束ね柱とし、その上に4層の水平材を乗せることによって、日本の伝統建築を連想させる象徴的な架構としつつ、4.55m×5.46mのスパンを実現しています。用途が異なるので、空間のスケール感はFMセンターとは異なりますが、ベースにある多くの設計条件には、共通するものがあります。運搬上の制約から材長を6mにおさえ、接合部の金物も汎用品を使うなど、FMセンターを見て、つくり方においても共通点が多いと感じました。見学時の説明から、雪荷重・風荷重・北海道の木材供給の課題などを踏まえて、かなり検討された上でダブルティンバー※2を開発された結果、3.64m×4.55mのスパンに必然的にたどり着いたことがわかりました。一般的な在来軸組工法では3.64mというスパンがひとつの基準になり、3.64m以上を飛ばそうとすると断面が大きくなって、重い印象の空間になっていきますが、ダブルにするという発想によって、軽やかで心地良いスケール感を持つ空間になっていると思います。他の掲載作品も無理なく架構が整理され、まとめられているなという印象です。特に気になったのが「HULIC&New GINZA 8」です。銀座の都心部に木造フレームの建築が立ち上がるというのは、時代の変化を感じるという意味でとても印象的です。HULIC&New GINZ8提供:竹中工務店FMセンターが地域型の木造建築だとすると、これは対比的な都市型の木造建築です。都市型の非住宅系木造建築には、必然的に高層と高い耐火性能が要求されます。北海道の森林と林業の課題   近年、北海道の森林、林業、木造についての課題が共有されていると思います。そのあたりについて詳しくお聞かせ下さい。小澤 北海道の森林では、主にパイロットフォレスト※3のカラマツ・トドマツが50年を超え、伐採の適齢期に入っています。一方でそれら道産材の利用がなかなか進んでいない現状があります。特にカラマツ・トドマツは建築よりも、梱包材など他の用途に使われている比率が高いようです。また、道内の木造建築に道産材が使われている割合はわずか20%程度です。残りは道外産と海外産です。この状況は北海道の林業や産業界にとって課題になっていて、北海道庁水産林務部もHOKKAIDO WOODというブランディングをしながら状況を打開していこうとしています。道内木工場は、住宅に特化し120mm巾や105mm巾といった小断面の一般流通材しか取り扱っていない工場がほとんどで、それ以上の大断面木材になると本州に輸送して加工する必要があります。そうなると、コストがかかり普及にブレーキがかかる面もあります。このような状況下で、先程申し上げたように、北海道では120mm巾の木材で設計を行い、道産材を積極的に利用することが有効に働いていくものと考えられます。小澤丈夫氏に聞くサステナビリティと地域性本号は、「持続可能な社会基盤づくり」をテーマに工法や建築のつくり方に対して新しい取り組みを目指している作品を特集しています。インタビューには、北海道を拠点に地域と建築の在り方に取り組んでおられる北海道大学大学院工学研究院教授の小澤丈夫先生をお招きしました。インタビューに先立ち北海道森林グランドサイクル※1の思想をベースにした「北海道地区FMセンター」を視察いただき、地域性に配慮した持続可能な設計の取組みと新しい空間のあり方についてお話を伺いました。一般流通材とローカル木造   北海道地区FMセンターをはじめ、掲載作品について感想をお聞かせ下さい。小澤竹中工務店といえば、材料や工法などを厳選し洗練されたディテールで建築をつくり上げるといったイメージを個人的にもっていたのですが、本日「北海道地区FMセンター」(以下、FMセンター)を拝見し、これまでとは異なる手作り感がある印象を持ちました。120mm角の一般流通材や外装ポリカーボネートなどを上手くラフに使っていることに、良い意味で肩の力が抜けているというか、洗練を求めていない態度を感じました。また120mm角木材を上手く二重に使って3.64m×4.55mのスパンとすることで、事務所でありながら住宅のようなスケール感を伴っていて、心地良い空間にまとまっていると思いました。近年、北海道内で加工できる120mm巾の一般流通材を使うことで流通経費を抑えるInterview

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る