Interview03北海道産材の利用状況地域の木材を地域で利用してくことで地産地消を加速することは、北海道に限らない今日的な課題で、FMセンターの説明ではこのことを“北海道森林グランドサイクル”と呼んでいましたね。日本建築学会北海道支部では、毎年建築作品発表会を開催しています。30から40の作品を1日で俯瞰すると、こういった時代性と地域の課題が見えてきます。さきほどの120mm巾の道産材活用の事例も増えており、建築作品の評価において重要なテーマとして位置づけられるようになっています。都市型木造と地域性 先程、地域型の木造と対比的なテーマとして都市型の木造があるとおっしゃってました。もう少し詳しくお聞かせ下さい。小澤 森林と林業が抱える課題は北海道だけの話ではなくて、全国的なものです。さらに脱炭素社会やSDGsというグローバルなテーマから、都市型木造への期待が高まっています。竹中工務店は燃エンウッドという技術を開発し、日本のトップランナーだと思います。今後、「HULIC&New GINZA 8」のような、更にそれ以上の高い技術力を使った、木造耐火建築が次々にできてくる時代になっていくと考えられます。その時に、都市型木造は地産地消でなくても良いと思います。首都圏に大規模の都市型木造をつくるとなると、ひとつの地域の木材では量的に十分ではありません。しかし海外材は使わず、国産材を使用するという捉え方はできると思います。そういった場合には全国の木材が適材適所で使われていくということが必要になってきます。工業材料であるコンクリート・鉄・ガラスに比べると、木は地域性が高い材料と言えます。以前私が拠点にしていた九州の木材に詳しい仲間と、宮崎杉で“組立和室”をつくりはじめました。北の北海道のトドマツと、南の宮崎の宮崎杉で同じものをつくって比較してみることで、わかってくることがあるのではないかと思いました。試作品の段階になり、宮崎杉でつくった“組立和室”は、北海道に持ってきてしばらく観察していると、部材が反り始めました。データをとりながら検証していたのですが、結論として“組立和室”は長期的に設置する地域の木材を使用してつくるのが、理想的であることがよくわかりました。木にストレスを与えないということです。“組立和室”は2畳サイズ、梁下高さ1.8m程度のユニットで、柱は60mm角、梁も巾60mmといった小さな部材で構成されています。そのため気候の変化に敏感で繊細です。地域型の木造は、この繊細さをふまえて考えるべきではないかと思っています。一方、都市型木造では、耐火性能向上のための加工をし断面サイズも大きくなるので反る心配は少ないと言えます。そのような都市型木造では地域性にこだわるよりも、技術的な性能や供給量を確保する課題にウエイトがおかれるのは当然のことと言えます。グローバルな視点とローカルな技術 先生はオランダ、スイス、北海道など様々な地域での設計経験を元に地域の技術と建築の関係について研究されていますが、その関係性についてお聞かせ下さい。北海道内の建築用材の自給率小澤ここ数年来、いくつかの国内外での調査やプロジェクトに関わっています。例えばフィンランドでは、木造の手仕事的な美しさや魅力を追求するのではなく、木材を工業的に建材化する生産システムをダイナミックに構築し、国外にも供給することに力を注いでいます。世界の木造化の潮流の中でも、国や地域ごとに違いはかなり強くあります。ローカルな文脈を丁寧に読みとりながら、グローバルな視点は常に持っていなくてはいけないと意識するようになりました。学生にも北海道でのローカリティを研究しつつ、一方でグローバルな視点(日本全国や世界)によって相対化しつつ、考察していくことの重要性を常日頃話しています。北海道の市町村から空間計画や施設づくりの協力依頼をうけることも多くあります。事業を立案したものの、そのコンセプトづくりや具体化のプロセスをどうしていいのかわからないという状況が多いようです。ヨーロッパ等の先進的な取組事例の話をしたりするのですが、行政の仕組みが異なるため、海外事例をそのまま当てはめることは、なかなか上手くいきません。例えばスイスを例に話をすると、スイスは四国くらいの大きさで人口870万人の連邦国家ですが、26の州にわかれていて、その州の中の基礎自治体(ゲマインデ)が強い権限を持っています。そのため都市計画や都市デザインにおいては、極めてローカルな視点が強く反映される伝統があります。バーゼル市とチューリッヒ市を比較してみても、取り組み方に大きな違いがあります。そこに建築家や研究者、エンジニアなどが入って、行政と一緒に進めていきます。昨日まで建築家だった人が、今日から行政担当者になって
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