DESIGNWORKS_55号
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04Interview写真:酒井広司組立和室「くみたて2015]建築設計:北海道大学小澤研究室+海野建設いるというような流動性もあります。人材が常に動いていることで、プロフェッショナルな意識が高く、議論の密度が高いことが印象的です。これは日本の国から県へ、県から地方自治体へというしくみとはかなり異質なものです。そういった事例を目の当たりにしながら、様々なローカルな文脈をグローバルな視点でちゃんと評価しないといけないと思うようになりました。ここまでは、建築をつくることの背景にある地域性と行政のしくみについての話ですが、純粋に技術面で近年注目した中に、北海道の板金技術があります。FMセンターの北東面や一般的な住宅にも多く使われていますが、北海道の人たちにとって板金仕上は慣れ親しんだ風景になっていると思います。北海道の厳しい環境の中で、断熱・気密の板金技術はトップクラスなんです。通気層や耐候性の試行錯誤を重ね、断熱と板金によって一体化した外皮をつくる手法は、まさに北海道で確立された技術です。職人の高い技術力によって、日本の板金技術は北海道が引っ張ってきたという自負もあります。これを北海道発の技術として評価する必要があると考え、板金の建築賞を業界団体と一緒につくり、事例を収集した本をまとめました。そのような積み重ねによって、ローカルな技術が一般化し普及していくことが重要であると思っています。北海道には、他にもレンガや石の技術もあります。古い考え方と言われるかもしれませんが、手仕事で丁寧につくるというのは日本人が長年やってきたことで、竹中工務店もまさにそうだと思いますが、そういった技術が残っていって欲しいと思っています。これからはBIMやIT化がますます進んでいくと思いますが、一方でローカルな職人技術が、かたちを変えながらも継承される余地をあわせ持って欲しいですし、共存できると考えています。FMセンターもBIMや先導的なシミュレーションによる検討を重ねながら設計したと説明がありましたが、できたものを見ると手仕事を感じる、その共存に共感を覚えました。サステナビリティと自由を喚起する架構   先生の師匠でもあるヘルマン・ヘルツベルハー※4についてお聞かせ下さい。小澤 オランダ時代にヘルツベルハーに教えて貰ったことはいろいろありますが、彼の事務所を離れて10年以上がたち、2010年に講演を聞く機会があり、以前と変わらないことを言いつづけていることを改めて目の当たりにしました。本冊子に掲載される作品とも共通点があると思ってみていたのですが、彼がかわらず言い続けている「建物をつくることは自由を生むものでなくてはいけない」というフレーズです。これは1950年代から1970年代にかけてブームになっていた、オランダ構造主義(structuralism)※5の考え方です。様々な工法で架構・空間・造作に至るつくりこみを構造としてつくっていくんですけど、時間軸を含め、その結果が人の行動を抑圧してはいけない、可変性を持たせ、自由にしなくてはいけない、というものです。人の行動を開いていく。彼の建築家としての一貫性は、本当に凄いなと思っています。デビューが50年代の終わりで現在も事務所をやっているので、すでに60年以上経っています。現在は事務所のかなりの部分を若い人に譲って、彼自身は以前より後ろに下ってはいますが、まだ現役です。この60年で世の中は大きく変わったと思うんですけど、彼の本質はあまり変わっていないんです。2010年の講演会は、ロッテルダムで開催されたサステナビリティに関するシンポジウムの一部でした。2000年代にオランダは土地価格が上昇し続けるバブル時代になっている中、建築がどんどん建設される一方で、サステナビリティという言葉が独り歩きしていました。まさにそのような状況の中で、昔と変わらないことを言い続けられることが、凄く新鮮に思えました。私だけではなく、聞いている人の多くが共感している様子も伝わってきました。通俗化された議論にまどわされない本質的なものが、あるなと思いました。翻ってみて昨今の状況を見ると、例えばSDGsという旗が盛んに振られています。認証評価され補助金がつき、バッジをいくつ付けたかが重要視される動向があります。それってどんどんしんどくなっていくような面があると思うんです。それよりも何のためにつくっているのか、新しい自由と可能性を開くにはどうしたらよいのか、素直にそこを見ていくことが大事だと改めて考えさせられます。もちろん設計者は、世の中の流れに受身で対応しなくてはいけない面があります。一方でこれを逆手にとって積極的に考えていくと、今の時代は社会や環境など広い視野を見据えた設計を展開するには、良い状況なのかなと思ったりもしています。森林と林業と木材の循環という課題1のとりくみは、脱炭素やSDGsという概念をブレークダウンすることで、施主の賛同を得られる

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