DESIGNWORKS_55号
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Interview05北菓楼札幌本館写真:並木博夫ケースもあると思います。地域に根差した人材づくり   大学の教育現場で感じることについてお聞かせ下さい。小澤 まず、私は建築設計をする人の能力は非常に高いという前提をもっています。創造行為に必要な情報を捌く力やまとめる力は、他の職種に引けを取らないものです。残念ながら近年建築を学ぶ学生には、建築学を工学の一分野と捉え、技術を習得して資格を取り技術職になることが目的化している傾向が以前より見られます。もっと起業家的な発想というか、いまの世界の状況の中でどこに視点をおいて、建築に取り組みクリエイトしていくのかを積極的に考えて欲しいと思っています。そういう姿勢で仕事に面白味を見つけていく、それができれば何をやらされるのか不安になることもなく、前向きに仕事に取り組んでいくことができると思うんです。近年、北海道大学では構造・環境設備などのエンジニアリング系分野が学生に人気ですが、それらをまとめていく計画・デザイン系分野の魅力を今まで以上に学生に伝えていく必要があると思っています。また、現実的に北海道になかなか人材が残らないという地域の課題もあります。これについては簡単ではないのですが、北海道の建築設計者が活躍できる環境を生み出していく努力が必要だと思っています。   最後に、設計施工に取り組む竹中工務店に対してコメントをお願いします。(聞き手:関谷和則 ・垣田淳)小澤 日本のゼネコンは、世界一の総合力をもっていると思っています。ヨーロッパのゼネコンは基本的に施工に特化しています。私がオランダにいた時期には、コンストラクターというコストマネジメントや工程管理をする別の業種がおりました。日本のゼネコンは、設計も含めた全てをコントロールできる能力を有しています。そのポテンシャルの高さには、他国にはないものがあると思います。竹中工務店はそこにとどまらず、最近はまちづくりにも参入していますよね。現在の竹中工務店がどこまでを仕事として捉えているのか、興味を持って見ています。最近の札幌の事例では、北菓楼札幌本館や赤レンガ庁舎改修など、文化財の活用やそれらを遺していく事案を企画から施工まで担っています。本当に良いものをいいかたちで遺して活用していきましょう、という社会の流れをつくる上で、重要な役割を演じていると思います。こういったことを目に見えるかたちで具体的に実践できる竹中工務店の総合力、そして特にその中でも高い能力を有する設計者を中心に、社会の幅広い分野で活躍して頂くことを期待しています。   本日はどうもありがとうございました。※1 北海道森林グランドサイクル竹中工務店は都市部でより多くの建物を木造化・木質化することで木材の需要を高め、日本の森林・林業・地域を活性化させることを「森林グランドサイクル」と呼んで活動を進めている。その活動を北海道内に限定して完結させる取り組み。※2 ダブルティンバー柱・梁・筋交いを二重部材構成とすることで荷重を分散し、スパン拡張と小断面化を図る在来軸組工法の新しい構造形式。道内で加工可能な一般流通材が使用可能となる。※3 パイロットフォレスト開拓のための火入れによる失火などから原野化した土地を造成・植林し、カラマツ人工林を主体とした約1万ヘクタールの広大な森林。昭和31年頃から森林造成が始まり、現在は伐採期に入っている。※4 ヘルマン・ヘルツベルハーアムステルダム生まれのオランダの建築家。デルフト工科大学名誉教授。オランダ構造主義の代表的建築家であり、2012年には王立英国建築家協会ロイヤルゴールドメダルを受賞。※5 オランダ構造主義1950年代末期のアムステルダムに成立した建築家グループ「オランダ構造主義」はCIAMを軸に展開していた近代建築を批判し修正する立場をとったオランダにおける後期近代建築運動。アルド・ファン・アイクやヘルマン・ヘルツベルハーが中心人物となり「in-between(中間領域)」などの設計概念がグループ内で共有されていた。小澤 丈夫(おざわ たけお)/北海道大学教授1984年1985-86年1987年1987-93年1994-98年1996年1998年2005-16年2016年-東京工業大学工学部建築学科卒業スイス連邦工科大学建築学部東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了株式会社大林組東京本社設計本部Architectuurstudio Herman Hertzberger ベルラーヘ建築研究所アムステルダム修了TEO architects設立(現 office Teo)北海道大学准教授北海道大学教授主な作品組立和室「くみたて2015」(2015)      「くみたて2020」(2021)丘のまち交流館”bi.yell”(2016)北海道医学部百年記念館(2019)主な著書  『現代板金建築』(鹿島出版会、2017)

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