04Interview横浜市寿町健康福祉交流センター/市営住宅写真:野村洋司変化させていったので、結果的にタフな設えながらも息苦しくない場所にできたと思います。また、「横浜市寿町健康福祉交流センター/市営住宅」の設計では、様々な背景のある人たちをどのように受け入れるかを考えました。そこでは、とにかく軒の深い縁側状の外廊下をつくりました。軒が深いと、雨の日でも濡れずに佇むことができます。人々が滞留するための場所をわざわざ用意するというのは、管理する側からは受け入れられにくい。そこで建物の入り口部分を“まちの縁側”という皆が納得できる空間的な仕掛けとして提案し、地域の人が気軽に立ち寄れるようにしました。できてみると、本当に地域の方が雨宿りをしていたり、将棋を指していたりして、街に開かれた場として上手く機能していると感じます。 場の特性を読み取ることで建築がつくり上げられた過程が思い浮かびます。小泉 他にも、寿町のプロジェクトでは行政にはかなり柔軟な対応をしてもらえました。例えば、広場に設けているスロープは1/8勾配で、1/12勾配ではないんです。車椅子対応の1/12とすると、広場がかなり狭くなってしまう。そもそも、エレベーターがあるので移動円滑化経路は確保できており、実際はスロープがなくても法令上は問題ありません。普通は、それならばスロープはやめてしまおうとなりますよね。でも、例えば災害時停電でエレベーターが止まってしまったときにどうなるか。まちで歩行補助器や車椅子を使っている人をよく見かけますが、1/8勾配でもスロープがあれば、他の人が押すことで車椅子で上下できます。寿町は互助の精神のある場所だから、急であっても『環境建築私論』書影スロープをつくっておけば必ず機能するはずだ、といった議論の末この設計が実現しました。これは非常に大事な経験でした。基準に乗っていなくても機能する場面はあるし、十分役に立つわけです。利用者が不特定多数となったとき、我々はどうしても数値で決められた基準に頼ろうとしてしまいます。法律で決まっているのだから、守っていれば一応良し、という免罪符として。そのようなリスクヘッジが先行して、思考停止してはいけないんだ、とこの設計を通して考えるようになりました。災害が起きて停電するなんて容易に想像がつくわけで、建築家としてはその想像力くらい、いつでも働かさないといけないんです。学生にも度々言うのですが、「創造力」が重要だということは皆さんよく理解をしていますが、本当は「想像力」も大事なのです。動線を検討するとき、足が不自由な方が来たらどういうことが起きるだろうか、と想像する。あるいはディテールを考えるとき、雨の気持ちになって水がどう流れるのか考える。そういった想像力を働かせれば、スロープの意味、雨仕舞の意味がなんとなく分かるようになります。私たち設計者にとって、色々な場面を想定して、自分の設計した建物がそのときにどう振る舞うのか「想像」することは非常に重要なのです。『環境建築私論』――サステナブルデザインを考える 『環境建築私論』を2022年4月に出版されましたが、そこで考えられてきたことを紹介いただきたいです。小泉 これまで環境に配慮した設計手法について、いろいろな試行をしてきました。「環境デザイン」という言葉をよく使っていましたが、最近は、サステナブルデザインという言葉を使うことが多くなりました。サステナブルデザインというと、環境配慮のデザイン手法のひとつというぐらいに、意味を狭めて考えてしまいがちですが、サステナビリティというのは本来もっと広い概念だと思います。持続可能であるために、例えば、働く人の環境や平等性なども含まれます。そういったサステナビリティを建築の中に組み込むことを考えていかなかればならないのではないでしょうか。その観点で見ると、信濃の森工場では、働く人のためにメニュー豊かな食事を提供している社員食堂がありましたね。職場での食事は働く中での楽しみのひとつだし、働いている人が楽しく長続きできる工場であるためには重要なポイントです。そのように、サステナブルデザインの間口の広さ、奥行きの深さを捉えながら設計していくことが今後の建築において必要だと感じています。 建築のサステナビリティの中で、特に注目している観点はありますか。小泉 例えば、少子化で人口が減っていく社会の中での建築のあり方を考えることも、サステナビリティという意味で重要です。今まではひとつの建築をつくるにあたって、我々は技術者として、精緻を極めていく、深く掘り下げていくというスタンスを取ってきました。しかし、これから着実に人口が減っていく中では、一人ひとりが専門的に細かなことばかりするのではなく、いくつもの役割を演じる横断的なふるまいが求められてくると思うんです。だから、プロフェッショナルとして深い部分を持つだけ
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