DESIGNWORKS_57号
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02Interview三菱ケミカルScience & Innovation Center 本棟写真:小川重雄三菱ケミカルScience & Innovation Center 本棟写真:小川重雄シームレスに繋がっていくような感覚を持つ吹き抜け空間と緑の空間は、本来持っているポテンシャルが最大限に生かされており、設計者の方がこの土地を見て、感受性豊かに発見されたことがこのオフィスに立ち現れていると思います。やはりこれからのオフィスというのは、自然環境や光を十分に感じられるような場所を作っていく必要があると考えています。研究所の場合、特に合理的な計画としての研究所と、人間の創造性や暮らし、生活が豊かになるようなオフィスは、性格が全く逆だったりします。僕も研究所を設計させていただく機会が多いので、これらをどうやって共存させるのかは、非常に面白いところだと思いますが、そういう意味では、上手く計画がされていると思います。また、建物を建てる時に、周りのポテンシャルを上げていくという考え方は非常に重要だなと思っていますが、その点から特に面白いと思ったのは、谷状と傾斜の敷地というのを、上手く建物の記号として扱い、スリットとして軸線が生まれていることです。既存の建物を改修するという取り組みも含めて、分析してきっちりつくりこんでいるのも面白いと思いました。一方で、都市とラボの関係性がどうあるべきなのかなというのは本当に難しいことですよね。今回はケヤキ並木を取り込むことでオフィスを一つにまとめ、オフィスもラボも南北に延長できるシステムにしているところが特徴なのだと思います。南側のオフィスというのは日射の問題がありますが、東側に配置し並木によって上手く日差しをカットしていることは上手く計画されていると思います。部署ごとにどうしてもまとまってしまう三菱ケミカルScience & Innovation Center 本棟 配置図中で、セクショナリズムをなくしたりシナジー効果を高めるというのは、ラボでもオフィスでも中心的なコンセプトになるのですが、働く場所をまとめるだけではなかなかそういう効果は得られません。むしろ、同じ屋根を共有しているとか、同じ光を見ているとか、全体のアイコンとなるような場所が全員のオフィスから見えるといった、なにか同じような感覚を共有していることや、同じものを見ているといったものが一体感を生むのにすごく大事だと思っています。そういった目で見ると、今回ケヤキというのが、全体における大きなアイコンになっていて、特に真ん中の吹き抜けが結節点になっています。結節点としてのケヤキ並木という場所は、共通のひとつの場所として強く記憶に残るので、これはいいなと思いましたね。「生活する」と「働き方」を考える小堀先日、イタリアとドイツに行って、オフィスをいろいろ見てきました。むこうでも、今後の働き方をどうするかということに結構皆さん悩まれていました。戦後、日本は経済発展を目指して復興を果たしました。一方でイタリアは、もう一回暮らしを見直そうということで生活を復興したんです。戦後に何が大事だったかというと、彼らは暮らしで、我々は経済なんですね。その結果、イタリアも日本も、それぞれに暮らしと経済をうまく両立することができなかった。特に日本は、東京に機能を一極集中しすぎてしまったような気がします。ドイツでは、ベルリン、ミュンヘン、フランクフルト、それぞれに機能がちゃんとありますが、住む場所や暮らしって小堀哲夫氏に聞く独創性を引き出すワークプレイス本号は、「働き方をデザインする」をテーマに、研究所やオフィスを特集しています。法政大学教授であり建築家の小堀哲夫先生に「三菱ケミカルScience & Innovation Center 本棟(以下三菱ケミカル研究所)」を視察していただき、「独創性を引き出すワークプレイス」のあり方についてお話を伺いました。   視察いただいた感想をお聞かせください。小堀正直に言うと、写真を見たとき結構にぎやかなデザインなのかなと思っていたのですが、実際に拝見すると、光が感じられる気持ちの良い空間ですね。木があって、光の状態が心地良い木漏れ日として入ってくるのは、ルーバーが三角形で千鳥に配置されているからだと思うのですが、ルーバーがもし垂直な形態で並んでいたとしたら、おそらく光の状態も均質に見えてきたと思います。写真を見たときの印象とは違って、入った瞬間、気持ちがいいなと感じます。それは、みなさんが本質的に感じていることなんじゃないかと思います。今回見せていただいたようなコンピューティングされたデザインは結局施工までどう繋がっていくのかがいちばん重要なポイントだと思っていて、我々もアトリエとしてチャレンジしています。合理性からデザインの方へ行って、表現としてまとめていくことに真正面からチャレンジをしていくということは、とても面白いと思いました。また、特にオフィス空間から見える大きな緑と木漏れ日がとても素晴らしいです。内部と外部がNNInterview

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