DESIGNWORKS_57号
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Interview03ブリッツ・ジードルンク(1925) 設計ブルーノ・タウト写真:小堀哲夫建築設計事務所いうのをあきらめていない。住戸自体は狭くて合理化していますが、立派な庭があって、住まうことに執着があるのを感じます。素晴らしいですよね。ベルリンのブリッツ・ジードルングにも立ち寄ったのですが、小さいけれど、みんな家や庭をちゃんと手入れしています。それに比べ、僕らは住むっていうことをあきらめていないかと考えさせられました。我々設計者は、暮らしと働くことを真剣に、あきらめずに設計しないといけないと思いました。今進行しているプロジェクトは建設中にコロナ禍になってしまって、こんな大きいものをつくってどうするんだと考えていたところなので、「働く」ということと「生活する」ということのバランスを見直すきっかけになりました。イタリアでは、家族や社員でのコミュニケーションやコミュニティを非常に重要視しています。コロナ禍になって、お昼にみんなで食事したり会話をする時間の大切さや、会社に行って求めていたのは実は、コミュニケーションだったということに気づいたようです。日本では会社は働く場所っていうイメージがあって、話しに行く場所という感じじゃないですよね。けれどイタリアの場合は、話しに行くための場所っていう印象があるんです。彼らにとってもコロナ禍になったことによる気づきだったんじゃないかと思いますが、単なる働く場所じゃなくて、人に会いに行くというのが会社のいいところなんだと思います。一方ドイツは、そもそも個人主義の社会で会社に行って会話はしないし、みんなで飲みに行ったりしないんですね。勝手に終わったり、ぱっと帰ったり、みんな合理的に仕事をしている。なのでリモートワークが一気に浸透して、ワークショップ事例写真:小堀哲夫建築設計事務所オフィスビルが完成したとしても、戻ってこない。要は、会いに行くっていう感覚がそもそもないから、仕事を家でしても良いってなったら、だいぶシフトしちゃったみたいなんです。文化や社会と、オフィスとの関係性は地域によってかなり大きく違うなと感じていて、日本の場合はどうなんだろうって思ったときに、日本はイタリア的でもありドイツ的でもあると思いました。会社に行ってみんなで話したりもするし、自分の生活も大事だから帰る人もいるし、いいとこどりなのだと思っています。会社のオフィスって何のためにあるのか、何のために行くのかなっていうことをよく設計事務所内で議論するんですが、人と会うことの重要性と、新しい発想に気づいたりできるような豊かな環境をオフィスに用意しておかないと、やはり家の方が快適だってなってしまうとそっちにシフトしてしまうんじゃないかなと考えています。オフィスのあり方を考える   小堀さんはよく、オフィスでも研究所でもそこの人を巻き込んで、一緒にワークショップをやられたりしながら設計されてますよね。小堀 理由は3つあって、ひとつは、彼らが自分たちの場所を自分たちでつくるきっかけを生み出し、プロセス自体を共有化することで、竣工後の使い方を最初にデザインしていくことや、使い方のデザインを一緒に考えていくことができるからです。ふたつめに、働き方を変えていこうというCIC Tokyo 模型写真:小堀哲夫建築設計事務所意識を一緒に醸成していかないと、どうしても従来通りのものしか想像できず、つくることができないからです。例えば、我々が思い切った提案をしたとしても、いまと違うから使えないなど、そういう意見が出がちなんです。そうではなくて、ワークショップで新しい働き方や自分たちの幸せなどがどういうふうに実現できるのかを一緒に考えることで、より踏み込んだ新しいオフィス空間が見えてくる。ワークショップを通じて、新しい価値をみんなで探していこうということが重要な仕組みだと思っています。最後は、ワークショップをすると僕らも思ってもいないような意見が出てくるからです。特に、もともとプログラムになかったものだとか、社員が実はこうなりたかったみたいな、そういったようなものは、我々だけでなく会社もビックリします。そういったものを一緒に見つけ出し、会社全体が一丸となってつくっていくことで、気運を醸成できると思っています。オフィスとして200人ぐらいの規模をワークショップとしてやっていますが、大規模の会社となると、なかなか難しいかもしれません。でも、やっぱり一緒にプロセスを共有するのは非常に重要だなと思いますね。最近、設計事務所でやろうとしているのが、部署ごとに働けるキッチンのあるオフィスです。虎ノ門ヒルズビジネスタワーのCIC Tokyoを設計していた時に、オフィスで足りないのは、食だと思ったのです。今回イタリアへ行った時もそうだったのですが、一番心地いい時って食事している時だと思うので、食事することと働くということを繋げたらどうかと考えています。三菱ケミカル研究所もキッチンが一か所あり、

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