船場センタービル(竣工時)写真:竹中工務店に工業集積が張り付いた。やがて都心が拡大し周縁部を飲み込むと、その外側、内陸および大阪湾岸の埋立地に新しい都市機能をつくらざるを得なくなる。地理的に狭い大阪は、埋め立てを継続し、都市機能を拡大してきたわけです。平面的に拡大ができないとすれば、密度を高めるしかない。有効利用をはかるべく、都市の「立体化」が促されます。地下を掘削し、上空に積む。今でこそ景観の観点から建物高さが制限されますが、近代大阪で求められたのはむしろ高さでした。都心部においては最高高さではなく、百尺=31mという 「最低高さ」を定め、建物容積と美観を確保しようとしたわけです。具体的には、1936年に全国に先駆けて高度地区制度を採用し、大阪駅前エリアに建物高さの最低限度を定めました。ただし、経済的も技術的にも発展して、建物として実現するのは戦後復興期から経済成長期でしたが。現在は近代において整備された市街地を更新する「再都市化」の段階に入っています。問題点は大阪の場合、街区が大きくなく、また地権者が細分化されている。 敷地を束ねて大きく開発することが望ましいが、大阪では細分化された敷地に、個別の建て替えが進む。しかも隣の建物との調和は気にしない。いやむしろ隣と違う方がいい、みたいな(笑)。梅田1丁目1番地計画で、阪急阪神の経営統合もあり、道路を挟んだまま2敷地一体でビルを建設できたことは画期的だと思います。2 ユニークであること、大阪であること橋爪 都市開発にあって、いかにユニークな事業展開を行うことができるのか。 大阪は競争の激しい街であったため、事業主は統一感阪急三番街(竣工時)写真:竹中工務店や集積の利ではなく、いかに他とは違う最先端なものをかたちにするのかといった点を追求します。阪急電鉄・小林一三は、世界の最先端事例を視察したうえで、大阪・関西にカスタマイズしようとした。そのままのコピーではない大阪固有のソリューションとして、 ターミナルデパートや宝塚歌劇をつくりだす。また公共も同様です。御堂筋の例でいえば、欧米都市に比肩する幹線道路を計画し、電線は地中化して街灯も設置します。ただし街路樹は東洋の樹木がよいと維持管理の面倒な銀杏を導入したというのは、私の大好きなエピソードです。ビルディングの考え方においてもユニークさが際立ちます。例えば、船場センタービル。80m幅員の道路を多目的に利活用、阪神高速道路と一般高架道路、平面道路で構成します。下部には、道路占有によって長大なビルを建設し、既存街区に集積していた多数の繊維問屋を収めたのです。高架道路とビルが構造的に一体化し、地下鉄まで並走しています。戦後復興の都市計画で拡幅が予定されていましたが、区画整理が進まず実現できていなかった。それを道路の下にビルを収めるというソリューションによって解決した。まさに発明だと思います。法体系としての立体道路制度なんて、はるか後に整備されている。ビルディングも個性的です。例えば、戦後復興にあっていち早く大阪駅前に建設された第一生命ビルディング。建築基準法による最高高さ31m制限を超える、12階建ての建物でした。その高さを活かすかたちで、日本初となる屋上ビアガーデンが開かれ人気を博しました。事例が先行していて、あとから制度がついてくるのが大阪らしいと思います。また阪急三番街などもユニークでしょう。ターミナルビルの地下商業空間に、店舗面積を大幅に犠牲にしつつ、長さ90mの「川」をつくった。 水を用いた地下空間の演出、世界初の川が流れる地下街です。あるいはHEPファイブの屋上に観覧車を乗せるなど、テーマパークの発想が入っていますね。阪急大阪梅田駅も、プラットフォームの屋根の上を駐車場にするなど大胆な方法論が採られています。大阪では従来なかった方法論が絶えず工夫されてきました。ブレイクスルーは、ソリューションの複合化から生まれます。だから今われわれは、先人の実績を越えるアイデアがあるのかが問われています。 グローバル化した世界においては、都市固有のユニークネスが要請される。橋爪 世界のどこかで流行したものが、すぐに模倣される。ポートランドやメルボルン、あるいは北欧の都市など、世界中がベンチマークにしている都市があります。世界中が先行事例に学ぶなかで、どこも同じような開発がなされる。それでは個性が失われます。グローバルで最先端だけど、材料とか表現とか何かに「この街」でしかできない建物を捻出することが常に求められます。シカゴ、ニューヨーク、グラスゴー、バルセロナなど、近代初期にローカルな建築運動が興った都市では、繁栄した時代の建築が、文化性も豊かなストックになっている。大阪では、少なくとも戦前期までは、東京の建築界とは別に「関西の建築界」が自立していました。ゼネコン設計部、組織設計、官公庁営繕などが、Interview03
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