1970年大阪万博写真:橋爪紳也コレクション近年は、エリア全体の中心がどこかが見えにくくなっているように思います。欧米では広場を中心に街が発展をみました。対してわが国は、やはり街路を中心として街が発展してきました。私はストリートの文化を復活させる必要があると思います。私自身は、御堂筋で低層階に飲食や物販の店舗を導入することで高さ規制を緩和することを提唱しました。また歩道を広げて街路空間を再編してゆくことで、日本独自の広場的な場所を確保することができると思い、御堂筋などで実践をしています。わかりやすくいえば、街路空間の「広場化」が必要ということになります。大阪ではアメリカ村の三角公園などが成功した事例でしょう。もともと道路に付属した「街園」でしたが、周辺が急に若者の街になったときに、ライブ等ができるようなかたちに整備されました。そのプロセスが大事だと思います。欧米の人のように、私たちは広場ではくつろがない。ストリートの文化を活性化させるのが日本流でしょう。5 大阪・関西の次の100年 1970年大阪万博と、2025年大阪・関西万博の意義、可能性についていかがでしょうか。橋爪 戦後復興の到達を示す国家イベントが、日本政府による国際博覧会、いわゆる1970年大阪万博の開催でした。個人的には、70年万博の当時は小学生四年生でした。空間軸で世界の広がり、時間軸で近未来の可能性を、万博会場で瞬間的に確認できました。すごい衝撃を受けて、将来は博覧会のような祝祭を大阪万博にて橋爪紳也、節也兄弟写真:橋爪紳也コレクション生み出す分野で仕事をしたいと思いました。1970年大阪万博では、地下鉄や高速をはじめとする幹線道路などの交通機関の整備が進捗しました。GHQから返還された大阪空港の国際化も実現しました。当時は、戦後復興から高度経済成長を果たした後の大阪がなすべきことが予め想定されていたので、博覧会の開催はそれを促す役割になりました。同時に万博は、次の事業を推進する「契機」にもなりました。2025年の大阪・関西万博も「未来社会の実験場」をうたっていますが、将来の都市のビジョンが本当に魅力的かどうかが問われます。重要なのは2025年以降の夢を描き、「ポスト」万博の大阪を可視化することです。万博がゴールではなく、万博からスタートする未来の都市を構想する必要があります。ベイエリアを今後どのようなエリアにしていくのか、梅田などのエリアをさらにどのように発展させてゆくか。万博後の2030年、2050年の大阪や関西の姿を、多くの人が希望をもって語る必要があります。建築は50年、60年で更新しアップデートされるというのが、大きな考え方です。ですから都市もまた、50年、60年でダイナミックに更新されていくものだと思います。 都市計画法が制定され、1925年に大大阪が誕生して100年、2025年は2回目の万博の年であると同時に、大阪・ 関西の次の100年を構想する機会でもありますね。橋爪 大阪はもともと商いの街で、伝統に拘らない街でした。未来に向かって世界の最先端を導入することに躊躇しない。色んな(聞き手:米正太郎・関谷和則・鈴木星穂・鈴晃樹・吉田直弘)橋爪 紳也 (はしづめ しんや)/建築史家、都市計画家、大阪公立大学特別教授1960年1984年1990年2006年2008年大阪市生まれ京都大学工学部建築学科修了大阪大学大学院工学研究科博士課程修了大阪市立大学都市研究プラザ教授大阪府立大学産学官連携機構特別教授受賞歴2015年度日本都市計画学会石川賞2016年度日本建築学会学会賞(業績)ほか多数著作 『大大阪モダニズム遊覧』芸術新聞社、2018『新大阪モダン建築』青幻舎、2019『大阪万博の戦後史』創元社、2020ほか多数ものを組み合わせ、新しいものを創り出すことにためらいはない。他人とコミュニケーションしながら、常に自らを巻き込んでいく。 一人称と二人称が曖昧で、親しい人は全部「ジブン」というのが大阪流です。相手の懐にまず入り、全てが自分事であると考える。それは、自律した個人主義ではなく、集団主義でもなく、個と個が対等でフラットな関係にあるといえるでしょう。大阪では「面白い」という価値観が評価されます。それは「笑い」ではなく、他の人とは異なる発想や実践に対して沸き起こるものです。固定観念に縛られず、自由でユニークな発想を生む原点に、縦社会ではない大阪独自のコミュニケーション文化があると思います。2025年の大阪・ 関西万博を、次の100年を構想する機会とするためにも、会場内だけではなく大阪の都心全体で国際的な祝祭を展開するという発想が不可欠でしょう。世界の他の都市にないアイデアをもって、大阪独自の方法論で街を改めてゆくことができるのか、知識ではなく実践的な知恵が求められると思います。 本日はどうもありがとうございました。Interview05
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