02Interviewむしろ我々以上にやりたいことがはっきりしていました。最初に話を伺う前は、ホールをつくるんだと思っていたのです。そうしたら、子育て支援の施設もあるし、プラネタリウムもある、その他にも周りにある公共建築の機能が次々に入ってきて、なんでもありみたいになって、一体どうなっちゃうんだろうという感じでした。今までは、「せんだいメディアテーク」にしても「水戸市民会館」にしても、文化的なプログラムでまとまっていたのです。茨木市は全く関係ないような機能が組み合わされていて、本当にうまくできるのかなと思っていたのですが、次第に今までの公共建築とは異なる面白さがあると思い始めました。 「おにクル」は賑やかですけれど静かな、安心してその場に居られるような空気感が印象的でした。伊東 “居心地がいい”というのは、いつもすごく気にしていることです。居心地の良さというのはいくら図面で考えても模型で考えてもなかなか見えてこない部分で、現場に立って考えながら材料を決めたりしていくこととか、プロポーションなんかがすごく大事だと思うのです。出来上がって利用者の人びとがどう感じてくれるかということをいつもすごく気にしています。以前、東京で続けている子供塾に建築家の親子が来ていたのですが、お父さんが自分は建築家だからいろんなところへ小さい子供を連れて見学に行くと、子供が先にこれは好きな建築だとか、嫌な建築だとかを判断する、という話をしてました。子供は動物と同じで、理屈は抜きにして、居心地がいいかどうかを感性だけで決めちゃうのですね。子供が喜んでくれる建築をつくりたいといつも思っています。そういう意味では、茨木市市長の福岡洋一さんもすごく感覚的でしたね。オープン10ヶ月前ぐらいかな、私が現場に行ったら市長が一人で歩いてて、4時間ぐらい一緒に現場を見るのに付き合ってくれたことがありました。あんな市長は珍しいですね。ご自分で使い道や、やってみたい事など、いろんなことを考えながら歩いておられるのではないかと思いました。 公園の中を歩いているような、というお話がありましたが、建築と自然との関係性やあり方について、どのようにお考えですか。伊東 「ぎふメディアコスモス」は、床輻射冷暖房を採用していて、床から上がってきた冷気や暖気を自然の力で流しています。温まった空気はゆっくりと高いところへ流れていきますから、グローブの頂部から排出されていくのです。そうすると室内でも、外にいてそよ風が吹いているような空気の流れを感じることができるのです。設備設計を検討する時に、空気が流れているということがすごく大事なんだと言われて、半信半疑だったのですが、出来上がって初めてその風を感じた時、「ああ、湿気さえ取っておけば外でいい風が吹くのと同じ感じだな」と実感したのです。設備設計によって自然に近い環境をつくるということは、とても大事じゃないかと思います。もうひとつは、僕が今までつくってきた建築は比較的部屋とか壁が少ないということが言えると思うのです。自然の中には壁がないですよね。よくたとえ話で、僕が飼っている犬の話をするのです。僕は今マンションに住んでいるのですが、マンション暮らしの人はみな何LDKという住まいの中で、年中同じところで寝て同じところで食べて同じところでテレビを見てという生活をしています。LDKに分かれた部屋に従った生活を強いられているわけですよね。ところが犬は、そういうことはもう全く関係ないのです。暑い時は玄関のたたきで寝てますし、寒い時は陽だまりにやってきて寝っ転がっています。一番寒い時は僕のベッドに潜り込む、つまり部屋ではなく場所を選んでいるわけです、居場所を。部屋という分節は、動物には関係ない。自然の中に入ったら、我々も同じように場所を選ぶと思います。壁がない流動的な空間をつくりたいというのは、部屋でなくて「場」をつくりたいからです。人間もやはり動物的でないと感受性を失って、乾いた人間になってしまうということをいつも感じています。だから自然に近づけるという写真:藤塚光政「育てる広場」おにクル本号は、「建築によって人びとのつながりやコミュニティの場を再構成する」をテーマに、特集を組んでいます。巻頭インタビューには、建築家 伊東豊雄氏 をお招きし、竹中工務店設計部と共同設計によって実現した 「茨木市文化・子育て複合施設 おにクル」をはじめとした、これまでの様々なプロジェクトでの協働の取組みや“これからの建築のあり方”についてお話を伺いました。 先日「おにクル」を訪れましたが、たくさんの市民に利用されていました。伊東先生が公共建築において取組んでこられたことの進化形と捉えました。チューブ構造による「せんだいメディアテーク」や、大空間にグローブが点在する「みんなの森 ぎふメディアコスモス」のように、人が集まる魅力ある空間をつくり続けていらっしゃいます。伊東 「おにクル」を設計していた時は、北側全面に芝生の広場があるということが前提になっていて、そこからそのまま建物の中に入っていく立体的な公園だということをずっと考えながら設計していました。出来上がってみて、建築の内部ですが、公園の中を歩いているような感覚で人々が楽しんでくれている感じがあります。建築の内と外に一線を画すのではなく、連続する空間を実現できたように思っており、それが大勢の人が来てくれている要因という気がしています。特に子供さんや若い人が来てくれているのは、ありがたいですね。「おにクル」の場合は、周りの環境が良かったということにも大きな要因があると思います。場所としては今まで設計した公共建築のなかでも最高の部類に属すると思っていて、ふたつの駅を結ぶ商業的な道路と、南北につながっていくグリーンベルト、それから隣に茨木市市役所もあり、昔から公共的な場所が周りにたくさんあって、そういう場所に囲まれて存在していたことは幸運でした。また自治体の若い市長さんを筆頭に僕らのやりたいことを理解してくれただけではなく、伊東豊雄氏に聞く「美しい建築」をめざして−竹中工務店との協働30年を振りかえるInterview
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