ブックタイトル竹中技術研究報告書No70

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概要

竹中技術研究報告書No70

竹中技術研究報告No.70 2014TAKENAKA TECHNICAL RESEARCH REPORT No.70 2014九州大学椎木講堂の音響設計Acoustical Design of the Siiki Hall of Kyushu University中川武彦Takehiko Nakagawa*1小柳慎一郎Shin’ichiro Koyanagi*2日高孝之Takayuki Hidaka*3梗概当該講堂は最大で約3,000人を収容する国内最大規模の大学講堂である。4組の大型昇降遮音壁および移動間仕切壁によって客席部を分割して使用することが可能であるとともに,本格的な音楽演奏会場としての機能が要求された。一方で,その平面形は音響的に極めて難易度が高いとされるギリシャ野外劇場に近い半円状の様式で計画されていた。こうした理由から,適正な音響性能実現のため,コンピュータシミュレーションや,1/10縮尺音響模型実験による検討に加え,広帯域薄型吸音パネルとPRD拡散体の材料開発,最終確認としての可聴化デモンストレーションを行い,課題解決にあたった。本報ではこれら一連の音響設計の内容について報告するとともに,今後の設計資料となる音響データについて論じる。キーワード:講堂,音響設計,音響模型実験,広帯域薄型吸音パネル,PRD拡散体SummarySiiki Hall, which was planned to be one of the largest convention halls of domestic universities with about 3,000 peoplecapacity, was designed to divide for lecture rooms using 4-pairs of lifting walls and sliding walls, and was required to apply forclassical concert. Nevertheless, it was almost half circle ground plan which came with many difficulties to achieve acousticallypreferable condition. For the purpose, acoustical checks and verifications using computer simulations and 1/10 scale acousticalmodel experiments were conducted; furthermore, thin broadband sound absorbing structure and PRD diffuser were developed.Moreover,auralizationtestofthehallwasexecuted.Keywords: ?hall, acoustical design, acoustical scale-model experiment,thin broadband sound absorbing structure, PRD diffuser1はじめに自然豊かな糸島半島のほぼ中央に位置する伊都キャンパスへの移転が進む九州大学において,2011年の創立百周年を機に,新しい学術文化の拠点となる象徴的な施設として本講堂が計画された。寄付者である椎木正和氏の名を冠した本講堂は,最大で約3,000人を収容可能な国内最大規模の大学講堂である。その主たる用途は入学式や学位授与式等の学内イベントや学会行事,講演会等であるが,椎木氏の強い意向により本格的なクラシックコンサートにも供し得ることが求められた。これに加えて大学サイドの要望により,講堂客席を前後に分断する移動間仕切壁と,天井内に格納可能な昇降壁とを組み合わせて,約1,000人収容のホールと5つの階段教室に分割可能とし,さらに舞台には音響反射板を設置可能とすることで,Fig. 1に示すように多様な形式に転換できるよう計画された。本講堂の主形状としては,舞台上に弧の中心を有する開き角の大きい扇形,即ち半円に近い平面形である。これは設計者である内藤廣氏がギリシャ野外円形劇場にインスピレーションを得て考案されたとのことである。しかし音響的には,その円心が舞台上に存在するため,いわゆる音の集中現象による影響が懸念された。また断面形は中通路部分の前後で天井高が大きく異なっており,適正な気積の確保等の観点において音響上の課題であった。こうした状況において技術研究所は,主として音楽演奏利用時における音響障害の是正を目的として,着工後,音響設計協力に参画した。この一連の課題解決手法は今後の類似事例の参考になると考えられるため,その検討・実施内容の*1技術研究所主任研究員Chief Researcher, Research & Development Institute*2技術研究所研究主任博士(工学)Associate Chief Researcher, Research & Development Institute, Dr. Eng.*3技術研究所リサーチフェロー博士(工学)Research Fellow, Research & Development Institute, Dr. Eng.51