ブックタイトル竹中技術研究報告書No70

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概要

竹中技術研究報告書No70

竹中技術研究報告No.70 2014TAKENAKA TECHNICAL RESEARCH REPORT No.70 2014ぐ必要があった。しかしこの改善案は実施されなかった。そこで施工上の目標性能水準として学校の一般教室間の6)遮音性能推奨値にあたるD r-40程度を達成するために,昇降壁の周囲(後壁や移動間仕切壁,天井,さらには段床との取り合い部)からの遮音欠損を軽減するおさまりについて検討・協議した。一方,講堂の前後をホールと階段教室群とに分断する移動間仕切壁は,天井レールから吊られた幅約1.2mのパネルで円周状の曲面を構成する。この移動間仕切壁もまた二重とされていたが,ホール~階段教室間の遮音性能水準に関する音響特記仕様D r-65を満たすには,床ガイドレール設置やパネル間おさまりの改善等に加えて浮構造化の必要があった。しかしこれらの改善案も全て不採択となり,結果として,運用時に異なる目的(例えば音楽演奏と講義)での同時使用がない前提で,講堂と一般教室の遮音性能推奨値D r-55を参考にD r-50程度を目指すこととなった。Fig. 13空室時残響時間(実線:竣工時実測値,破線:予測計算値。赤線:1,000席コンサート形式,黒線:3,000席講堂形式)Reverberation time(unoccupied): broken lines areestimated values, solid lines measured ones aftercompletion;1,000seatswithstageenc.(red),3,000seatsw/o stage enc.(black)3.2外部騒音対策本講堂敷地は軍用ヘリコプターの飛来ルートにあたるなど,外部騒音による講堂内への影響が懸念された。これら外部音源に対し音響特記仕様(舞台・ホールNC-25,階段教室NC-30)を満たすには,フライタワーに防振遮音天井を追加することや,外部に直接面する階段教室後壁の出入扉の二重化とサッシの外壁化が必要であった。このうち前者は実施されホール内の静謐性確保につながったが,後者については,階段教室部に対しこれらの外部騒音が侵入しNC-30を超過することは許容されるとの設計判断から,ガラス厚の増加など限定的な対策にとどめられた。3.3竣工時の性能本工事完了時に,施工者の自主検査として遮音測定を行った。昇降壁を介して隣接する階段教室間はD r-40~45,移動間仕切を介して隣接するホール~階段教室間はD r-50~55であり,いずれも施工上の目標水準を満たした。4あとがき寄付者である椎木正和氏は,若い時に重病を患われた際ベートーヴェンの音楽に力を与えられ回復された体験から,本講堂に対して本格的演奏会場としての機能を要望されたと伺っている。ニーチェは処女作『悲劇の誕生』において「音楽こそ世界の本来の理念であり,観客を不条理や悲しみから救済する」と著しているが,氏はまさにこの言葉を体現されたと言えよう。かたや,その世界の理念たる音楽を生み出した過去の偉大なる作曲家達は特定の空間の響きを想定して作曲した。バッハはライプチヒのトーマス教会の響きを考慮してマタイ受難曲を作り,ワグナーにいたっては自身が創作した楽劇を演ずる専用劇場としてバイロイト歌劇場を建設した。人類が本質的に必要とする音楽芸術の美は音響空間と伴に存在するのである。こうした背景を知悉し,椎木講堂の音響改善に対する我々の提案を快く受け入れられた,設計者の内藤廣代表,神林哲也取締役,スタッフ御一同に衷心より感謝とお礼を申し上げたい。音響設計上,難易度の高い当プロジェクトが滞りなく完成を迎えたことは,当然ながら設計者・大学関係者・音楽関係者・施工担当者の緻密なコラボレーションにより成し遂げられた成果である。プロジェクト遂行に当たり多大なご支援を賜った,指揮者・小泉和裕氏,九州大学・松村晶教授,坂井猛教授,尾本章准教授,?九州交響楽団・内藤博幸部長,今村賢部長,竹中工務店・菊一大輔所長,木村康彦部長,同作業所スタッフの方々をはじめとする関係各位には,ここにあらためて感謝を申し上げる次第である。また,音響設計業務に協力いただいた竹中技研・山田祐生主任研究員,鈴木和憲主任研究員,西原法子主任研究員,靍羽琢元研究員にお礼申し上げる。本稿を終えるにあたり,今後,椎木講堂がその機能を十分に発揮し有効に活用されることを心より期待する。58