2010年入社
学生時代の専門分野:地震防災・構造動力学
大学で地震防災・構造動力学を学んでいた青井は、当初は設計や施工管理に進むことを思い描いていたが、研究室の縁で技術研究所を見学し、環境や働き方など、建築分野の枠に収まらない多領域の研究をゼネコンが担っている事実に驚いた。同時に、多様な研究員が互いを尊重しながら誇りを持って研究を進める姿に感銘を受け、自らも研究者として歩む決意を固めた。
入社後には一年間の寮生活が待っていた。最初は戸惑いもあったが、同期と同じ屋根の下で暮らした日々は、今も支え合える仲間との強い絆を育んだ。
「振り返れば、同期との絆を育んだ、かけがえのない経験でしたね」
見学で触れた研究所の多様性と誠実さ、そして寮生活で得た仲間との結びつき。その両方が、竹中工務店の風土を深く理解させ、ここでなら研究の歩みを確かに続けられると確信させた。
学生時代は学術的な研究が中心で、成果を社会でどう生かすかまで意識することは少なかった。
だが入社後、地震防災分野の研究に取り組む中で、研究が社会と結びつくことにこそ意義があると強く意識するようになる。
ジョブローテーション(異なる部署を経験する制度)で、研究成果の特許化や技術活用を担う知的財産部を経験。そこで痛感したのは、どんなに優れた研究成果でも、それが認知・活用されない限り、社会の役に立たないという現実だった。研究成果をわかりやすく伝え、広める工夫の重要性を強く認識したという。
「研究成果を相手が選びやすい形に整理し、メニュー化して提示することが重要だ」と青井は語る。
さらに国立の研究機関に出向し、建物の地震被害を検証する実大震動実験プロジェクトに携わった。そこで学んだのは、公的研究と民間研究それぞれの特性と役割の違いだった。国立の研究機関では公共性の高い課題に幅広く取り組み、民間では市場ニーズに直結した研究開発が重視される。異なる研究フェーズを担う両者を体感したからこそ、相互連携の必要性を強く意識するようになった。そして同時に、民間企業だからこそ発揮できるスピード感を持って社会実装へとつなぐ研究開発の価値を再認識し、企業研究ならではの特色とやりがいも鮮明になった。
こうした経験を通じて、研究は“創ること”と“広めること”の両方が欠かせないと確信するに至った。それは研究員としての責任であり、同時に大きなやりがいでもある。
地震や水害といった自然災害は社会に深刻な影響を及ぼす。その被害を軽減する防災技術は重要だが、導入にはコストが伴い、企業が採用をためらう現実がある。青井はその壁を前に、従来の発想を変える必要性を感じてきた。近年は「フェーズフリー」と呼ばれる考え方が注目されている。これは災害時だけでなく平常時にも役立つ技術のことで、日常を豊かにし、いざという時に命を守る二重の価値を備えている。青井はこの発想に強く共感している。
「防災を負担から価値あるものへ変えたい。そうなれば、企業も自然と取り入れてくれるはずです」
登山やキャンプに使うアウトドアグッズが、日常はもちろん非常時にも役立つように、防災技術もまた暮らしに溶け込み、日常的に社会に価値をもたらす存在でありたい。社内の多様な分野と連携し、複数の技術を組み合わせてパッケージ化すれば、人々にとって選びやすい解決策となる。そうした取り組みの積み重ねが、社会全体のレジリエンスを確かに高めていく。
防災の価値をどう伝え、どう人々の暮らしに浸透させるか。その問いを胸に、青井は研究を前へと進めている。
青井は学生時代から地震防災を研究し、社会人となった今も同じ分野に挑み続けている。一方で、休日は中学から続けるバレーボールに汗を流す。研究もスポーツも、長く取り組んできたからこそ見える景色がある。
「新しいことを探すのもよいが、与えられた環境の中で続けることで深まる面白さもある」
そんな姿勢は研究員としての歩みにも通じる。研究は一人で完結するものではなく、多くの仲間と協力し合い、助け合いながら進めるチーム戦だ。青井は「コミュニケーションを取りながら課題を解決していけることに、大きな充実感を覚える」と語る。
積み重ねる力と、仲間と取り組む喜び。それが研究を続ける原動力となっている。日々の歩みは地道でも、その先に広がる景色は確かに変わっていく。青井は仲間とともに、その未来を静かに見据えている。
2025年8月に行ったインタビューを元に執筆しています。部署名は取材当時(2025年8月)のものです。
青井 淳 あおい あつし
地震防災・レジリエンス分野を専門とし、建物の地震リスク評価、被害推定システムの開発・運用・改善、地震計を用いた建物健全度評価、GISによる災害情報共有ツールの開発などに取り組む。国立の研究機関への出向や知的財産部でのジョブローテーション経験を通じ、研究成果を社会へ届ける重要性を実感。近年は水害・噴火降灰など対象を広げ、フェーズフリーなソリューション開発を推進している。
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