Competition
旧ワイン醸造所をラス・ファジャスの精神示す文化施設に再解釈
Bodegas Vinival
入社2年目の4チームが「TERRAVIVA 2025」で入賞
当社では毎年、入社2年目の設計部社員がチームを結成し、国際コンペに応募しています。2025年は、東京本店、東北支店、北海道支店に配属された30人がA〜Dの4チームに分かれ、TERRAVIVA※が主催するアイデア・コンペに応募しました。チームAとBが「The Field Station」のテーマで共にHonorable Mentionsに、CとDチームが「Bodegas Vinival」のテーマでFinalistsとGolden Mentionsに選ばれました。各チームの代表者にコンペに参加した手応えを聞きました。
※ Terravivaは、世界中のクリエイターを対象として、建築や都市計画、ランドスケープデザイン、グラフィックデザインなどのコンペを主催するベンチャー企業。カリフォルニアの建築評論家リチャード・インガーソル氏の指導で誕生。ミラノ工科大学の教育部門として活動していたが、2022年にBocconi for Innovation(ミラノ市)の支援で、スタートアップとなった。国際的で多様な専門性をもつ複数の審査員によって受賞作を選定。
Aeration for Breathing/Finalist(チームC)

La Crema Cotidiàna/Golden Mentions(チームD)

■Bodegas Vinivalの募集要項
スペイン東部のバレンシア近郊に立つ旧ワイン醸造所Bodegas Vinivalの改修。伝統的な祭り「ラス・ファジャス」の精神を表現する文化施設として再解釈することが求められた。既存建物は鉄骨の柱と梁で、外壁とボールト屋根がレンガ造で、73.8m×65.6m、高さは19.6m。ラス・ファジャスは、巨大な張り子人形(ファジャ)が街中に飾られ、祭りの最終日には全て燃やされる(クレマ)イベントである。
竹中工務店から応募したCチームは、鉄骨造のなかに大スパンの劇場を挿入。そこでファジャを燃やすことができるように空気の流れを確保した。Dチームは、祭りのための1年を1日に見立てて、太陽軌道をデザインに取り込んだ。夕日を象徴的に見せるスロープなど、祭りの詩的な解釈が評価されGolden Mentionsに選ばれた。
Aeration for Breathing—— 既存建築に劇場の大空間を挿入(Cチーム)

吸気口と煙突を既存の連続ヴォールト屋根に挿入したファサード
年に1度のラス・ファジャスの祭りの最終日は、劇場内でファジャを燃やす
—— どのコンペに応募するかをチームで選ぶそうですが、このテーマを選んだ理由と提案内容を教えてください。
小林由佳(建築設計) 私自身リジェネラティブ(再生・回復)の分野に興味をもっていました。会社の中でも、建築の再生をどんどん手掛けていこうという指針があり、このコンペに応募することをチームで決めました。
既存の建物が密閉された瓶のように閉じられた暗い印象だったので、風穴を開けることで健全な建物にすることをコンセプトとし、「Aeration for Breathing(呼吸のための通気)」と名付けました。具体的には、既存の中に新しく鉄筋コンクリート造の劇場を挿入しています。ラス・ファジャスは、創造と破壊のお祭りなので、それを再解釈して、夢幻の演劇やパフォーマンスのための劇場としました。
祭りの時にはこの大空間がファジャを燃やすための煙突として機能します。
Aeration for Breathingのためのダイアグラム
吉村友(インテリア設計) 最初に、意匠・構造・設備などの領域は関係なく、自由にディスカッションしました。みんなでアイデアを膨らませるうちに、アイコニックな既存建物の大空間を印象的に見せたいという方向になりました。それで、複合的な機能ではなくシンプルに劇場ホールのみを挿入しています。
ただ、既存建物に対してダイナミックに別の構造をもつ架構を重ね合わせているので、構造的には難易度が高いものになっています。設備的にもどのように風を入れていくか、実際に解析してもらって開口の位置などを決めています。
小林 建物内でファジャを燃やす案は最初からあり、設備のメンバーがラス・ファジャスの開催時期の風向きを調べてくれて、その方向に吸気口を向けました。劇場のかたちは、燃やしている様子を外から見られるようにしています。でも、私たちが描いたかたちだと風が上手く流れないと、環境シミュレーションの結果から指摘をもらって、開口の位置もより風が流れるように微調整しながら最終的なかたちを決めていきました。
吉村 劇場の大空間を無柱にしたいので25mくらいスパンを飛ばしたいと言ったら、構造のメンバーに怒られました(笑)。「なんでできないの?」と3時間くらい議論しました。結局、ここも構造解析をしてもらって、結局、片持ちのアイデアを出してもらい、案を作ることができました。
断面 劇場内部でファジャを組み立てる
—— 同期同士のコラボレーションで発見したこと、今後の仕事につなげたいことなど教えてください。
吉村 同期だからこそ、率直な意見を言ってもらえたと思います。自分勝手な絵を描くだけではなく、やはり「人の話は聞こう!」と、あらためて思いました(笑)。私はインテリアの部署なので、建築設計や構造、設備設計との協力が必ず必要になってきます。コミュニケーションを大切にして仕事に向き合っていこうと思います。
小林 竹中工務店の新入社員は1年間寮で一緒に生活をします。そうした仲だから、初歩的なこともお互いに気軽に質問できて、勉強になりました。分からないことは教えてもらおうという姿勢は、普段の仕事でも持ち続けたいと思います。
吉村 インテリアの職能としては、合理的であると同時に、やはり魅力的な空間、人の心をつかめる空間に注力していきたいです。どうすればそれができるのか、手探りですが、表現方法を磨いていきたいです。
小林 構造や設備など他領域とのコミュニケーションを取る上で、ヴィジョンを共有する大切さをこのコンペで学びました。自分が不安に思っていると相手を説得できないので、やりたいことをきちんとヴィジョンとして伝えることができるようになりたいです。
設計施工一貫でできる魅力が当社にあると思うので、施工のプロセスも一緒に考えるような経験も、今後は積んでいきたいです。
ビーチ側のアプローチ
1階ホワイエ 回転扉から建物内部に空気を取り入れる
2階ホワイエ 既存の天窓が作る光のリズムの中で、挿入した煙突横を通るアプローチ
La Cremà Cotidiana—— 1年を1日に見立て、太陽軌道をデザインに取り込む(Dチーム)

—— 産業遺産の建物を改築するコンペに挑んだ理由と、提案内容を教えてください。
橋口真緒(建築設計) まず特徴的な既存建築に惹かれ、それをどのようにデザインするか、そしてそれをどうやって公共に開くかというテーマに魅力を感じました。最終的にはチーム内で投票して「Bodegas Vinival」を選びました。
ラス・ファジャスは、1年間かけてファジャを創造し、それを祭りの7日間で燃やす(破壊する)ので、創造と破壊が大きなコンセプトです。要項で全曜日、朝から晩まで生き生きと活動する場が求められていたので、ラス・ファジャスの1年間を1日で表現しようと考えました。1日の終りを告げる日没をクレマに見立てて、夕日を象徴的に見せる建築としました。
眞下健也(建築設計) 敷地が工業地域として発展した時代から移り変わって、現在は農地やリゾートビーチ・学校などさまざまな用途が混在するエリアとなっていること、ワインがぶどうを積層させ発酵させて作られることから、この敷地をさまざまな要素が積層する場所であると捉えました。そこで東西方向に海風が抜けるスロープを貫入させ、建物を南北に分割しています。南棟にはアトリエやギャラリーなど地域の人が日常的に使う用途を、北棟は屋外中心の空間とし、野外劇場、マーケット、カフェやバーの機能を入れ、観光客を迎え入れる場としました。スロープを通る人々がこれらのさまざまな要素が積層する空間を通り抜けるような計画としました。
コンセプトのダイアグラム
橋口 既存のワイナリーに3つのメイン動線があり、その1つが海からつながる道の軌道上にありました。そこに注目し、建築の1スパンを分割(破壊)し、夕日につながる軸をつくったかたちです。
また、閉鎖的だった既存建物を北側の公園に向けて開いたステージにして、文化的な自己表現の場としました。北側の公園では、太陽をスポットライトとして見立て、太陽の動きに合わせて動くステージ、観客場所にもなる丘を計画し、日中も太陽を意識して活動できる空間としています。
配置計画と周辺との関係 夕日を象徴的に見られるように建物を2つに分割するスロープを設けた
眞下 プランニングおよび断面計画は、ワイナリーの中でブドウが熟していくことを意識し、異なる要素が吹き抜けやスロープで交わることで交流が生まれ空間が醸成されていくことを目指しています。間仕切りもカーテンを使った可変性のある計画としました。
既存建物と新しい部分がそれぞれ違う価値を持ちながらも、お互いを尊重し合って調和していくことを考えました。
平面
—— コンペを通じて得た知見やエピソードはありますか? それは今後の仕事にどのように影響していくと思いますか?
橋口 アイデアを出す段階でいろいろユニークな提案がありました。ファジャを燃やした灰を再利用するとか、ごみ処理施設にして熱を利用したプールにするとか……全員が対等に意見を出し合えたことが、最終案の大きなヒントになったと思います。ラス・ファジャスは聖ヨセフのお祭りなので、十字に新しい建築を挿入する案が、スロープによる分割につながっています。
眞下 建物を分割して移動するという案もあって、それも最終案につながっています。
その他、全然違う角度からの意見や発想に触れることができたのが面白かったです。設備設計のメンバーから出たカーテンと外壁の間に空気層をつくって断熱効果を生むという提案や、ステージの組積造躯体に大開口を設けるために上から鉄骨をまぐさとして吊ることによって保たせる提案など、アイデアコンペですが、技術的にも実現可能性のある強度を持った提案にするため、各職能で意見を出し合って検討を行いました。
橋口 実際のプロジェクトでは、意匠設計が先行してアイデアを出すことが多いですが、最初から多様な専門性をもった人と一緒に走り出すと、それぞれがやりたいことが融合してより良い建築ができるという実感を得ました。
そして将来的には、今回の経験を活かして、実施の国際コンペにも挑戦したいです。
眞下 意匠側から提案したことを、構造や設備の技術力で解決してもらうためには、なぜそれが必要なのか、その目線を合わせておくことが必要だと思いました。そうすると、「こうすればできる」という提案をしてもらえて、やりやすくなるのかなと思います。
施工に関しても、設計と施工でお互いの良さを引き出せるようなプロジェクトを実現したいです。現在、実務でも改修プロジェクトを担当しているので、このコンペ以上に、良い建築をつくりたいです。
午前8時、マーケットが周辺住民で賑わう
午前10時、2階のギャラリーがオープン。東西に走るスロープより見る
ラス・ファジャスの日の午後8時のイメージ
左からDチームの橋⼝真緒、眞下健也、Cチームの⼩林由佳、吉村友
聞き⼿:「⽵中のデザイン」WEBサイト編集WG
(2026年2月24日 竹中工務店東京本店にて)