たてものめがね・まちめがね 宇宙から虫まで、縮尺で考える建築の見方

竹中工務店は2025年2月8日〜24日、大阪・梅田貨物駅跡地の再開発で誕生した「グラングリーン大阪」に建つ文化装置「VS.(ヴイエス)」で、「たてものめがね・まちめがね展」を開催。
グラングリーン大阪の開発にJVとして企画・設計・施工で関わってきた当社は、先進的な取り組みをするVS.の企画にも参加していた。VS.初の企業展として、新しい挑戦をするため、当社が主催する展示プロジェクトを立ち上げた。
キーワードは、「TAKENAKA AS AN ARTIST(アーティストとしての⽵中⼯務店)」。若手社員16⼈が展覧会の企画から設計、設営、運営までを⼿掛けた。
「建築やまちをつくる⾯⽩さを広く伝えたい」という想いは、17⽇間で延べ2万6千⼈を数える来場者数に繋がった。


高田雄輝 伊藤万由子 魚住奈緒美 大鶴啓介※ 畦上駿斗※ 北森誠人※


田中はつみ 山口大地 齊藤風結 興津俊宏 堀沙樹※

※開発計画本部


建築の面白さを企業として発信する

 

—— 展示企画はどのように立てたのですか?

興津俊宏(設計部/展示プロジェクトリーダー)
24年の年始に、展示プロジェクトのチームリーダーを拝命しました。その時点でB to Cという方向性は決まっていたけれど、何をやるかはまだ白紙でした。ただ、VS.からキュレータとして丹原健翔さんを推薦いただき、丹原さんが「TAKENAKA AS AN ARTIST」というコンセプトを打ち出していました。
企業がアーティストとして何を発信するのか——。それを考えるため、まずは若手社員を中心としたプロジェクトチームを結成しました。総勢16人、設計部のほか開発計画本部・技術研究所の多様な人材が集まってくれました。
24年の1月末、丹原さんとチームメンバーが初顔合わせをし、そこからチームビルドのためにワークショップ(以下WS)を3カ月くらいかけて行いました。
その中でブレイクスルーとなったのは、講師で来てくれたアートコレクターの宮津大輔さんの「芸術とは同時代性で評価される」という言葉です。企業として現代の課題に対して新しい価値を発信できれば、それが芸術になると腑に落ちて、チームの転機になりました。

たてものめがねまちめがねメイキング:https://www.takenaka.co.jp/vs-exh/

「縮尺:スケール」の横断を切り口とした4つの展示室

展示は、等身大になる部屋、スケールを横断する部屋、たてもの・
まちをつくる部屋、これからの技術にふれる部屋の4つの部屋で構成。

工事現場の中を覗くようなイメージで会場構成をした展覧会のエントランス

展示室1:等身大になる部屋(1/1)

日本古来の1間(1.8m)をモジュールとした1.8m×1.8m×1.8m四方の1間ブロック。1間ブロックで、日常の色々なシーンを切り取り、普段あまり意識しないモノの大きさを体感する。天井高15mの部屋に1間ブロックを5段積み重ねたインパクトのある演出とした。

展示室2:スケールを横断する部屋(1/10、1/100、1/1000)

1/10は、家具など詳細な点景を配置した模型を展示。巨人になったような感覚で空間をのぞいて見る。
1/100は、細かい部分をそぎ落とし、建物の特徴的な形をシンプルに見せる白い模型を展示。鳥の目線で建築を眺めて見る。
1/1000は、地図を開いてまちをみわたして見る。大阪のうめきた、天王寺、今年の大阪・関西万博会場の夢洲、そして1970年の万博会場だった万博記念公園という大阪を代表する4つのエリアをタイルカーペットを用いて展示した。

展示室3:たてもの・まちをつくる部屋(1/100)

12m×12mの巨大なカーペットの上に8つの島をつくった。島はそれぞれ特徴があり、そこに来場者が1間を1/100にしたサイズのブロックを使って建物をつくることができる。

展⽰室3:たてもの・まちをつくる部屋(1/100)

建物をつくるブロックはアップサイクル素材で製作した。間伐材、コロナが終息して不要になったアクリルスタンド、会社の敷地内芝刈りで出た芝、作業服など廃棄される衣料、現場で出た砂利やコンクリートがらなど、多様な廃材を利用。
来場者自身がブロックで作り上げるまち “1/100City(ひゃくいち・シティ)”。ブロックに貼付けられた非接触式のRFIDタグには素材に応じた情報が書き込まれており、各島のスキャナでリアルタイムに読み取ることで、まちがブロックの積み方に応じて育っていく様子が壁面に映し出される。例えば、コンクリート廃材のブロックを使うと安全性が高まり、服の廃材を使ったブロックを使うと文化度が上がるなどの属性を与え、リアルタイムにまちに反映される。プログラミングは、チームメンバーで技術研究所所属の今西美音子、木村文が担当。

展示室4:これからの技術にふれる部屋(技術展示)

宇宙で人が暮らすための技術、虫と共存して生活する設計技術など、展示のテーマに沿った7つの技術を展示。ロボットがブロックを積んだり、木の集成材でできたブロックを積み上げ耐震補強を行う技術などを見せている。
展示に加えて、エンジニア本部など技術系の社員が会場に説明員として参加した。

ワクワクする体験型展示と “めがね”

 

—— どのようなプロセスで、異なるスケールを体験する展示構成に至ったのでしょうか。

興津 展覧会の目的は建築やまちづくりの面白さを伝えることでした。建物やまちづくりの本質を伝える切り口としてスケールをテーマにしました。
建築を設計をする際、様々なスケールで空間を想像するのはとてもワクワクします。図面や模型でイマジネーションを膨らませ、それがだんだんと大きくなり、実物大になるのが面白い。
WSでもその感覚をみんなで共有していました。子どもの頃、積み木や砂場で空間をつくった原体験をそれぞれが持っていて、それは多くの人に共感してもらえるだろうということで、アイデアが収斂していきました。

 

—— 「たてものめがね・まちめがね」というタイトルはどのように決めたのですか?

興津 最初は「つみき・たてもの・まち」と仮タイトルで呼んでいました。でもある時点で、「スケールを変えると見方が変わる面白さをタイトルで表現したい」ということが意識化され、みんなで案を出し合いました。
膝をつき合わせる会議を半日×2回行い、見方を表現するアイテムとして「めがね」の案が浮上し、「たてものめがね まちめがね展」としました。
それだけでは何の展示か分からないので、「宇宙から虫まで、縮尺で考える建築の見方」というサブタイトルで補っています。これには、地球環境的な広い視点で建築や都市を設計していることを知って欲しいという願いを込めました。プロジェクトメンバーに技術研究所の虫博士がいたり、社内には宇宙建築タスクフォース(TSX)があったりするので、会社の人材や業務の幅を示すことも意図しました。

それぞれの “めがね” を通して展示を振り返る

—— 「たてものめがね・まちめがね」を通じて、自身の「見え方」は変わりましたか?

⿑藤風結(設計部) 僕は、「展示室1:等身大になる部屋(1/1)」の設計を担当しました。建築の面白さを知ってもらうと言いつつも、入社して研修を終えた直後にプロジェクトに参加したので、実は建築を作ったことがなかった(笑)。だから、本展では鑑賞者と同じ立場で、スケールに対する純粋な学びを得ていました。
「等身大になる部屋」のでき上がった実物を見て、予想よりも迫力や存在感があるとか、あの部分がもの寂しくなったとか、実物大にならないと分からない難しさを実感しました。

田中はつみ(設計部) 私は、「展示室2:スケールを横断する部屋(1/10、1/100、1/1000)」の設計を担当していました。
普段は、設計した建物に対し、建築業界の中での議論がほとんどで、もどかしさを感じることもありました。でも、本展では子供からお年寄りまで、建築業界にとらわれない様々な方々の感想を伺うことができました。また、空間を体験した人の表情を目の当たりにでき、予想通りだったり、予想以上のことが起こったり……貴重な経験でした。
日々の打合せから時間をかけてこの展示空間で何を伝えられるのかを丁寧に考え、それを空間として実践できたので、来場者に建築の面白さが伝わったと実感しました。今後の設計でも、空間を通して何が伝わるのかを考える努力を続けていきたいです。

伊藤万由子(インテリア設計) 「展示室3:たてもの・まちをつくる部屋(1/100)」の担当をしていました。スタッフとして会場に立ち、実際に来場者が1間ブロックで “たてもの・まち” をつくる姿を見て、誰もがこんな “たてもの” があったらいいなという想いを持っていることに気づかされました。子どもの目線だからこそ出てくる面白い発想もあり、きっかけが無いだけで、建築は誰にでも楽しめるということを改めて感じました。
また、社内にある幅広い専門知識に触れることができ、多様な知識をもつ先輩たちと一緒に、色々な挑戦をすることが楽しみになりました。

魚住奈緒美(設計部構造) 「展示室4:これからの技術にふれる部屋(技術展示)」を担当しました。子どもだけでなく、大人も楽しむ光景が目に焼き付いています。どのような建物を作ろうかとイメージを膨らませるのは、何歳になってもワクワクするのだと感じました。
私自身は、建設業に関わりながらもその楽しみを忘れそうになっていたことにハッとしました。仕事としては、コスト面で落としどころを見つける志向になってしまいがちですが、トキメキや初心を忘れずに仕事をしたいと思いました。

高田雄輝(設計部) 本展のプロセスは、時間をかけて行う大規模なプロジェクトでも参考にできると感じました。規模が大きくなると関係者も多く、最初から外装担当、内装担当など役割分担してしまうことがあります。また、建て主自身も気づいてないニーズや価値基準があることも多い。そういう時は、今回のように最初に関係者で、世界観や価値観を共有できれば、結果的にプロジェクトの質の向上に寄与すると感じました。

山口大地(設計部ビジュアライゼーション) 大勢でアートを作るのは初体験で、最初は困惑しました。しかし、表現という意味では普段の業務と共通点が多いと感じました。自分が楽しいと感じること、それを届けたいと思う気持ちを、表現者は強く持たなければいけません。だから自分たちが何を伝えるべきかを問われ続けた1年間でした。そして、一方的ではなく、興味を持ってもらうための伝え方をすること。空間を媒介として、それをバランス良くやることの大切さを学びました。

堀沙樹(開発計画本部) 展覧会中のアンケートで「建築やまちづくりに対して興味をもった」という回答が多く、私たちの思いがきちんと伝わったことを実感しました。また、会場で説明をしていた竹中社員の雰囲気が良かったというご意見も多かったです。企業と社会の接点が非常に大事になっている時代なので、本展が1つの触媒となって当社と社会をつなぐことができたと思います。そして、こうした実践は、都市づくりにもつながると気づきました。

畦上駿斗(開発計画本部) 僕たち開発計画部のメンバーは会期中のイベントを3種類企画して運営しました。 学生向けコンペ、建築以外の領域で活躍している人のトークイベント、来場者向けのワークショップです。竹中工務店をより身近に感じてもらえるイベントにすることを意識していました。忘れられないのは「たてもの・まちをつくる部屋」の光景です。まさか入場人数や時間を制限するほど来場してもらえるとは想像しておらず、それほどまでに楽しんでくれたのが衝撃的でした。

 

大鶴啓介(開発計画本部) 展覧会のアイコンである虫眼鏡を、アクリルでつくって来場者に配布したところ、大好評でした。展覧会を見た後に外に出て、虫眼鏡を通して色々なものを見てもらい「縮尺を変えれば見方が変わる」ということを実感してもらうための仕掛けです。
会期中は説明員として来場者と接し、直接フィードバックをいただけたので色々な気づきがありました。展示施設をユーザー視点で見ることができたので、この経験を今後の展示施設やパブリックスペースの企画や運営計画にも活かしていきたいと思います。

北森誠人(開発計画本部) チームのメンバーから多くの刺激を受けました。他人の意見を否定しないというルールを最初に決め、懐深く議論を交わす空気感がありました。それが、最終的にだれもが理解し易い表現につながったと感じています。ものづくりをする上で、相手に対する伝え方の大切さ、人としての姿勢を学びました。

“めがね” を彷彿させる「〇」をキーにしてグラフィックを展開。
ロゴも「〇」を使ったレタリングとした

興津 最初リーダーを引き受けた時は、まさか竹中のメンバーで運営までやるとは想像していませんでした。企画とアイデア、空間構成まで考えたものを外部委託して監修するイメージでした。
でも、普段は総合建設会社として企画から設計・施工、現場監理もやって、建築が使われ始めるところまで関わる、それと同じ感覚で最後まで責任も持って徹底的にデザインしたくなってしまった(笑)。みんなが妥協できずに、自分の手で最高のものに仕上げたくなるというあたりが、竹中工務店らしいなと思いました。だから、この展覧会は、設計施工の作品と言っていいと思います。チームメンバーに名は連ねていませんが、社内の多くの人から知見を頂くことができました。オール竹中でできた意義のある作品です。

興津 最初リーダーを引き受けた時は、まさか竹中のメンバーで運営までやるとは想像していませんでした。企画とアイデア、空間構成まで考えたものを外部委託して監修するイメージでした。
でも、普段は総合建設会社として企画から設計・施工、現場監理もやって、建築が使われ始めるところまで関わる、それと同じ感覚で最後まで責任も持って徹底的にデザインしたくなってしまった(笑)。みんなが妥協できずに、自分の手で最高のものに仕上げたくなるというあたりが、竹中工務店らしいなと思いました。だから、この展覧会は、設計施工の作品と言っていいと思います。チームメンバーに名は連ねていませんが、社内の多くの人から知見を頂くことができました。オール竹中でできた意義のある作品です。

“めがね” を彷彿させる「〇」をキーにしてグラフィックを展開。
ロゴも「〇」を使ったレタリングとした

聞き手:「⽵中のデザイン」WEBサイト編集WG
(2025年7月9日、竹中工務店大阪本店にて)