Competition 生物多様性と未来の海面上昇に順応する建築
The Field Station


入社2年目の4チームが「TERRAVIVA 2025」で入賞

当社では毎年、入社2年目の設計部社員がチームを結成し、国際コンペに応募しています。2025年は、東京本店、東北支店、北海道支店に配属された30人がA〜Dの4チームに分かれ、TERRAVIVAが主催するアイデア・コンペに応募しました。チームAとBが「The Field Station」のテーマで共にHonorable Mentionsに、CとDチームが「Bodegas Vinival」のテーマでFinalistsとGolden Mentionsに選ばれました。各チームの代表者にコンペに参加した手応えを聞きました。

※ Terravivaは、世界中のクリエイターを対象として、建築や都市計画、ランドスケープデザイン、グラフィックデザインなどのコンペを主催するベンチャー企業。カリフォルニアの建築評論家リチャード・インガーソル氏の指導で誕生。ミラノ工科大学の教育部門として活動していたが、2022年にBocconi for Innovation(ミラノ市)の支援で、スタートアップとなった。国際的で多様な専門性をもつ複数の審査員によって受賞作を選定。

Rooted Adaptation/Honorable Mentions(チームA)

Part of the Field/Honorable Mentions(チームB)

■The Field Stationとは?

敷地は米国・バージニア州の沿岸部にある自然保護区の潮汐湿地。林に囲まれた干潟には多様な動植物の生態系が存在している。2100年頃には海面上昇で現在よりも潮位が高くなることが予測されている。その場所に自然環境と調和する研究開発施設の提案が求められた。
竹中工務店から応募したAチームは、木材を基礎に用いて、海面上昇に合わせて浮くことができる仕組みを提案。敷地内で採取できる素材で建築を構成し、将来的の修繕にも備えた。Bチームは、レイヤー状に建物を配置し、水没する建物を自然に還し、陸側に新棟を建設する新陳代謝のメカニズムを提案。土壌環境の専門家もチームに参加し、海水の浸食による土壌や生態系の変化を考慮した提案とした。

Rooted Adaptation—— 生態系の一部となり、変化する環境と共に生きる研究所(チームA)

—— どのコンペに応募するかはチームで選ぶそうですが、このテーマを選んだ理由と提案内容を教えてください。

福士若葉(建築設計) 自然豊かな敷地なので、設備や構造、環境設計と協力して挑戦できると考えました。
タイトルの「Rooted Adaptation」が示すコンセプトは、バージニアの先住民が自然と共存していたように、生態系の一部となり、変化する環境と共に生きる研究所の創造です。

鈴木音々(建築設計) 海面上昇により沈んでしまう敷地への計画として、水面上昇という自然の変化に適応しながらレジリエンスを構築していく建築を目指しました。

福士 敷地全体に分棟型で海や森の研究施設を配置しています。これは日射を必要とする植物や日陰を好む動植物に配慮したからです。フィールドの中を木道でぐるぐると周回できるようになっています。
海面上昇を見越して、デッキの下にマツを水中貯木しているのが特徴です。

分棟型で研究施設を配置

鈴木(音) 水中貯木は、環境設計の功刀(くぬぎ)さんの提案でした。敷地内のマツ林が海水に浸かって枯れる前に伐採して、それを将来的に修復などに使う建材にしようというアイデアがありました。それならば、乾燥させるためには水中貯木がよいということで意見がまとまりました。
丸太を海中に収納することで、浸透圧により効率的に木材を乾燥させます。そして、その浮力で建築を浮かせることができる一石二鳥の仕掛けになっています。日常的な潮の満干にも将来的な海面上昇にも対応できます。

水中貯木の技術を使って、海面上昇に対応する仕組みを提案

—— 多様な専門性をもったチームでコンペに参加したことで、学んだこと、気づいたことはありますか。また、今後の抱負を教えてください。

福士 最初に全員でコンセプト・ディスカッションをしたときに、水中貯木や構造のモジュールの話など、建築設計だけでは出てこないアイデアがたくさん出てきて、風呂敷が広がった感覚がとても面白かったです。最後までその大きな風呂敷の中で、構造的に安全か、環境負荷は大きくないかなど案を検討していきました。

鈴木(音) 満干空調という水圧と空気圧を使った空調システムのアイデアは、設備設計の三橋さんから出ました。

福士 素材についても現地にある自然素材を使って循環させるとか、将来海に沈んでも生物に悪影響を与えないようにしようなど、みんなの知見を結集して提案に盛り込むことができたと思います。
建築の意匠設計が案を考えて、それを構造や設備などの人がサポートするということではなく、いろいろな専門知識をもった人が共創する貴重な経験になりました。
総合建設会社で設計を希望したのは、大勢の人とものづくりをやりたかったからです。このコンペではまさにそのような実践ができたと思っています。今後も社内外を問わず多くの人に話を聞く好奇心や、いろいろな知識のインプットを大切にしながら、設計活動に取り組んでいきたいです。今は、成長するためのあらゆる門が開かれているという実感があります。

鈴木(音) アイデアコンペではありますが、プロジェクトを最初から最後までチームでやるという一連のプロセスを経験できました。スケジュールや経費の管理も自分たちでやったので、外注するパースの見積りを取るなど、より実践的なことを学びました。
学生の頃は非現実的な建築のかたちを提案しがちでしたが、構造や設備の人から現実的なアイデアにしていくことを教わり、当社の技術力にさらなる期待を抱くようになりました。将来的には、竹中工務店独自の最新技術を活かした設計に携わってみたいと思っています。

ライブラリーと海ラボの外観

海ラボの内観

敷地にある素材で保守・修繕を行うことのできる材料で構成

Part of the Field—— 環境変化と共に進化しつづける(チームB)

—— 海面上昇に合わせて、新陳代謝していく提案のコンセプトを教えてください。

亀田鈴香(建築設計) 海面上昇に加えて、自然環境の変化で動植物の種が絶え間なく変化していくことに注目して進化し続ける建築を設計しました。水没した杭は炭素固定され続けます。建築部材を転換させた漁礁は生き物の住処として自然に還り、建築としての役割から自然界の一部へと変換されます。その一方で、陸地の方にボリュームをつぎ足して、海面に合わせて段々と移動していくことを想定し、レイヤー状の平面計画にしています。ダブルティンバー構造で、軽い木材を重機なしで再利用していくことを提案しました。

海面上昇に合わせて建物が新陳代謝できるようにレイヤー状に配置

重機なしで施工ができるよう、小径木をつかったダブルティンバー構法を提案

鈴木正義(建築設計) 今後どれくらい海水が浸食してくるかで、土壌や生態系が変化するので、グループ全体でそれを把握して、どのような建築にするかを検討しました。その観点から、設計部ではなくエンジニアリング本部から土壌環境を専門とする廣田峻也さんにチームに参加してもらいました。

亀田 コンペでは研究施設が求められていたのですが、何の研究所かまでは指定がありませんでした。そこで私たちは、土壌も含めた材料研究の場となることを想定しています。朽ちて水没した建築がどのように自然に影響を与えるかなど、建築自体が研究対象になり、そこから学びを得ることを考えました。

鈴木(正) 敷地には豊かな生態系があるので、建築がその生態サイクルの一部となるという意味で「Part of the Field」と名付けました。建築という人間の営みを循環する生態系の一部にしたいというのが、僕たちがもっとも伝えたかったことです。

自然に還る素材を利用し、新たに構築、変化し続ける建築

—— 土壌環境も含め、多様な専門性をもつチームでコンペに参加したことで得た新たな知見、学んだこと、気づいたことなどありますか。また、今後の抱負を教えてください。

鈴木(正) 建築が移動するので、熱源や給水をどうするのか設備的な課題について頭をひねり、議論しながら進めていました。

亀田 そこで設備から、ボートに小型の発電機や雨水処理装置を乗せて建築に接続させるというアイデアが出て、発想の転換に驚きました。

鈴木(正) 同じ課題に対して違った見方や意見、アイデアが出てくるのがすごく面白かったです。それをまとめていく難しさはあるものの、そこに挑戦していく楽しさを経験できました。最終的にみんなでまとめることができた達成感は、これから仕事をしていくともっと楽しいことがあるのだろうという希望につながりました。
実務ではまだ知識が足りなくてアイデアが出せていませんが、もっと勉強して、アイデアについて議論ができる存在になりたいです。総合建設会社なので、開発営業や施工などさまざまな業種の人とコラボレーションしていきたいと考えています。

亀田 チームには北海道支店のメンバーがいたので、どのようにコミュニケーションを取るのか最初は悩みましたが、オンラインのホワイトボードを使った作業は予想以上にアイデアやスケッチの共有がしやすく、想像力の発揮に繋がりました。
自分たちの提案の他に、A〜Dチーム全体を取りまとめる役割を担ったことも私にとっては新鮮な経験で、コミュニケーションについて考える良い勉強になりました。各チームの提案の方向性が固まる前に全員が集合して議論する機会をつくることができました。これは、各チームリーダーが主体的にコミュニケーションをとろうとしていたからです。このチーム間同士の積極的なコミュニケーションの姿勢が全チーム入賞という結果につながったのではないかと自負しています。
この経験を活かして、これからのプロジェクトで出会う方々ともしっかり対話を重ねて、丁寧な提案ができる設計者になりたいです。

レイヤー状の建築構成に隙間を設けることで、太陽光や通風を取り入れながら、生き物の住処や建物に近接した屋外研究活動の場を生み出す

船によるアクセスを想定し、小型の発電機や雨水処理装置を搭載したボートを建築に接続させることで、インフラを水上から供給する

杭や屋根材を漁礁として残すことで、建築を更新しながら生物の拠り所を作る

左からチームAの鈴木音々、福士若葉、チームBの亀田鈴香、鈴木正義

聞き⼿:「⽵中のデザイン」WEBサイト編集WG
(2026年2月24日 竹中工務店東京本店にて)