スクラップ&ビルドの価値観を変革する

建築設計|大阪避雷針工業神戸営業所

FEATURES01

つなぐ減築 ひらく増築

当初は解体され、建替えられる予定だった築35年の既存建築を、躯体と外装を残して再利⽤し、スクラップ&ビルドを超える価値の創出(→サーキュラーデザインビルドⓇ)を⽬指したプロジェクトです。
1989年竣工の鉄筋コンクリート造4階建ての大阪避雷針工業神戸営業所は、1・2階に倉庫が分かれていて、3階に事務所、4階に社宅がありました。既存建物にはエレベーターがなく資材の運搬等が不便でしたが、さらに時代の流れで社宅が空家になり、事務所も半分以上が余っていました。そのため規模を縮小して建て直したいというのが当初の依頼でした。
日常の使いやすさを考えると、1・2階に分かれていた倉庫は1階に集約し、3階の事務室を2階に配置したい。これを実現するには1階の床面積が不足するため、不要となった4階の社宅と3階及び2階の一部スラブを減築し、軽くなった分で既存躯体から南北に庇を吊り下げ、基礎をつくらず増築しました。
既存躯体を地形のようにとらえ、大胆な減築によって次世代に建築をつなぎ、人や地域にひらいていくことで長く愛され続ける建築を目指しました。

FEATURES02

既存躯体を地形の一部のようにとらえる

建物にはいつか終わりが来ます。それは、「物質的な寿命」が来た時ではなく、飽きられ「愛着の寿命」が尽きて見捨てられた時であることが多いと思います。だからこそ、これまでこの場所で一緒に時を刻んできた既存躯体の力を借りて、建物への愛着へとつなぎたいと考えました。解体した階段の痕跡を壁面に残したり、新築当時書かれた通り芯の跡を残したり、面積が限られたコアの会議室はスラブを撤去することであえて天井高の高い部屋にしたり、きれいにしすぎるのではなく、躯体を残すからこそできる空間をつくりました。
減築による面積調整では、面積を減らすほどコストと廃棄物量が増えます。そのため今回は、庇の木造化、階段を一つに集約することが法的に可能な床面積となる範囲までの減築と事前に定め、コストと廃棄物量を低減しながら吹抜けを介して1、2階のつながりが感じられる豊かな空間を実現しました。新規の耐震補強を一切行わずに、動線の妨げになっていた耐震壁を撤去したり、吹抜けを設けつつ耐震性能を新築時より向上する計画としました。

既存スラブを撤去し2層吹抜けにした会議室

1階共創スペース 既存スラブを撤去し吹抜けにした

2階トイレ 撤去した階段の跡

FEATURES03

既存躯体に優しい架構計画

増築した南北の庇や1階増床部は、既存躯体屋上から吊り下げた鉄骨架構により支持することで新設基礎をつくることなく実現しました。さらに吊り下げた鉄骨架構は引張材とすることで、スレンダーな断面としています。また屋上設備架台と一体化し既存躯体に被せるように配置することで、既存躯体接続部に大きな応力が生じない優しい架構計画としました。
建物の耐震性能は、4階と3階スラブの減築による重量分を見込み、この増築部の重量や耐震壁の撤去量をコントロールすることで、改修前に対して20%以上向上させています。また床の増築後の形にあわせて、精緻に地震力に対する検討を行い安全性を確認しています。
また増築を実現するため、既存の構造図や構造計画書から構造解析モデルを復元し、現行法にあわせた構造解析を実施し確認申請を再取得しました。

増築部の構造の考え方

ハット形鉄骨架構の構成

南側の大庇

FEATURES04

分解や修理が容易な循環型ディテール

部材同⼠の接合部は、ボルトやビス、ドリフトピンを露出させた納まりとすることで、修繕のしやすさや、将来の解体、⼆次利⽤を見越したデザインにしました。ボルトやビスの見え方まで検討し、建設工事に携わる会社の建物として、無骨で工業的なディテールとしました。

南側大庇の先端詳細図

解体時にボルトで取り外せる段板

ドリフトピンを露出した大庇

木材が取り外しできる構造体や手すり笠木

ビス留めにした壁

FEATURES05

既存樹木のアップサイクル

強剪定されて痛々しい見た目になっていた敷地内のクスノキは、テーブルや手すりなどの手が触れるものに転生し、余ったおがくずも3Dプリントして植栽プランターとして再生しました。もとからあった照明器具や家具もリメイクして再利用しています。
クスノキの加工、既存家具や照明の再生は、神戸市内の工場や職人にお願いしています。ちょっとした修理や将来の再改修時にも力になってもらえる関係を地域とつくり、地域内経済に貢献することも意図しました。

既存樹クスノキでつくられたテーブルがおかれた1階共創スペース

FEATURES06

資源循環を地域や自然につないでいく

既存躯体活用により、工期を40%短縮し、解体による騒音・振動の大幅低減と廃棄物の7割削減が実現しました。新設部では木材利用、電炉鋼・高炉スラグ微粉末を含んだコンクリートを採用し、新築と比べて建設時のCO2排出量を70%以上低減しました。新たに付加する材料は、なるべく近くから取り寄せるなど輸送時CO2の削減や国内林業の活性化も意図しました。
また、今回の改修でつくった大庇による日射制御や、高断熱化により省エネ性能を評価する数値ではBPI=0.59、BEI=0.40という極めて高い環境性能を獲得しました。新設したトップライトにより自然通風と自然採光を行い、中間期は空調なしで運用できています。エネルギーの利用効率を高めつつ、自然の力を積極的に活用して快適性を確保することができました。

⼤庇が⽇射を遮りながら、建物との隙間から⾵景を切り取る

南側開口から風が入りこむ。直達日射は庇により遮られる

山崎 篤史

大石 幸奈

村上 友規
(構造設計)

許斐 健太郎
(構造設計)

吉本 梨紗
(設備設計)