雪国のアーケード商店街を「開く」
建築設計|狸上るビル
FEATURES01
建物とアーケードの新しい繋がり方
狸上るビルは、閉ざされがちな雪国の全蓋式アーケード商店街において、「街に開かれた広場空間の創出」と「施工的制約の解決から付加価値を生む、ものづくり手法の構築」を試みています。壁面をセットバックしたスペースにトップライトを架けた半屋外のポケットパークに、2階への階段や、空を望めるテラススペース、3階との視線を繋ぐガラススクリーンを設けて、建物とアーケードの関係性を立体的に拡張しています。
半屋外のポケットパーク
断面パース
FEATURES02
アーケード商店街に新しい体験を生む
ポケットパークを介した建物とアーケードの繋がり方により、商店街に新しい空間体験を生み出すことを目指しました。カフェの客席としても利用される2階テラススペースは、商店街の人波と空の広がりを同時に望むことが出来る憩いの場となっています。アーケードより高い位置にある3階のスタジオは、窓越しに商店街の雰囲気を感じることができるだけでなく、通りを歩く人からもスタジオの様子を垣間見ることができる双方向の繋がりを生みだしています。またポケットパークでは、和太鼓の演奏イベントが行われる等、商店街と一体となった多様な都市活動の受け皿となり、街の広場空間として利用され始めています。
和太鼓演奏イベント開催時の様子
商店街の人波と空の広がりを同時に望める2階テラススペース
自然光と街の賑わいを引き込む、建物とアーケードの新しい繋がり方
FEATURES03
制約を解決するつくり方のデザイン
計画地は接道がアーケード側のみ、その他三方向は建物に囲われているため、工事においては建設資材の搬出入時間制限や大型揚重機の設置、資材ヤード確保の困難さが課題でした。そこで本計画では、仮設材と仕上材を兼ねた構工法を考案して施工上の課題を解決しました。搬出入資材量削減のため、型枠には木毛セメント板と断熱材を接着した複合板を打込型枠として用いました。また、仮設支保工と構造部材を兼用するラチス梁の採用により、仮設解体を不要とするとともに、打設後の施工スペースを確保することで生産合理性を向上させています。
配置図兼1階平面図
仮設材と仕上材を兼ねる構工法により実現した事務所空間
FEATURES04
つくりかたを現すインテリアの設え
インテリアには、仮設兼用で用いたラチス梁、フェローデッキ、打込型枠の木毛セメント板など、施工時の設えをそのまま現しています。ラチス梁は照明取付下地を兼用、ダクトレス空調により設備機器を排したノイズレスな天井面とライトシェルフにより自然光を間接的に取り込み、明るく開放的な事務所空間を生み出しました。また、サインにも異形鉄筋や鋼管、型枠押えの桟木等の施工時に見られる素材を用いています。施工時の設えをそのまま現したインテリアと合わせて、細部まで「ものづくりの雰囲気」が感じられる空間づくりを目指しました。
事務所フロア設備計画ダイアグラム
施工時の設えをそのままインテリアに現した事務所空間

千葉 拓也

高嶋 一穂