建物で水素を当たり前に「つかう」未来に向けて

設備設計|水素技術

FEATURES01

水素を効果的に活用し、設備システムを最適化する

脱炭素化への社会的ニーズが高まるなか、建築分野への水素システム導入事例が増えています。しかし、水素を最大限建物へ活用するには、水素貯蔵に対する量的な法的制約、安全性確保などによる高コスト化となる経済性の課題と共に、インフラ整備の不足など、さまざまな課題が存在します。

さらに重要なのは、「建物で水素をいかに上手に使うか」という課題です。

水素をエネルギーとして供給できたとしても、ただ消費するだけにとどまって、建物で上手に活用できなければ意味がありません。

給湯、暖房、発電など、各用途に応じた最適な利用方法、建物規模や地域特性に応じた導入戦略—— こうした具体的な設計検討がまだ十分とは言えません。水素社会への転換は強く叫ばれていますが、できている建築事例はごくわずかです。

今後、水素が建物のエネルギーの主要な選択肢となるには、経済性・インフラ面の課題解決に加えて、建物で上手に使える新たな工夫を生み出してしていく必要があります。

そこで、水素を利用することで、設備システム全体がより効果的となる工夫を、お客様と一緒になって実現した当社での事例を紹介します。

FEATURES02

年間温水需要のない建物でも
帯水層を利用することで水素を有効活用

水素燃料電池は、水素から電気をつくると同時に熱も生み出せる、高効率なエネルギーシステムとして注目されています。
一方で、オフィスビルや商業施設では、この熱を使う場面が限られています。特に冬の暖房時期以外は、燃料電池から生まれた熱の多くが使われないまま屋外に捨てられており、せっかくのエネルギーを十分に活用できていないという課題がありました。
そこで当社は、この未利用の熱を季節をまたいで活用できる新しい仕組みを、日本で初めて構築し、札幌市中心部にある「エア・ウォーターの森」にて実現しました。その中心となるのが、水素燃料電池と地下水を含む地層である帯水層に熱をためる「帯水層蓄熱システム(ATES)※1」との組み合わせです。

エア・ウォーターの森

※1 帯水層蓄熱システム(ATES:エーテス):”Aquifer Thermal Energy Storage”の頭文字
帯水層蓄熱システムは、地中熱利用のシステムのひとつに分類。
熱を帯水層(地下水が存在する地層)に蓄え、熱エネルギーとして活用するシステム。
温水井戸と冷水井戸の2本の井戸に、夏の温熱、冬の冷熱を蓄熱し、夏には冬の冷熱、冬には夏の温熱を取り出し、季節間で切り替えて利用する。帯水層内で温熱と冷熱が混ざらないよう、適切な井戸の離隔が必要。

本システムでは、これまで使い切れずに捨てられていた水素燃料電池の熱を、夏は地中へため、冬に取り出して利用することができるようになり、年間を通じて廃熱を無駄なく活用することが可能にしました。これにより、CO2排出量を約26%削減する効果が確認されています※2

水素燃料電池から出る熱を大気中に逃がすのではなく、帯水層にためて活用するため、通常必要となる屋外放熱設備を小さくできる、あるいは不要にできるため、水素燃料電池設備を建物内部に設置することが可能となる利点もあります。

 このシステムを導入するにあたっては、まずその地域の地下にある帯水層の状態を調べ、熱の出し入れが有効にできるポテンシャルがあることを確認しました。そのうえで、2本の井戸を構築し、それぞれ「地下の帯水層から水(熱)をくみ上げる井戸」と「利用後の水(廃熱)を地下の帯水層に戻して熱をためる井戸」として機能させます。

夏期は、地下からくみ上げた冷たい水を冷房に活用することで、冷凍機(チラー)の効率を高めます。さらに、冷房で発生した熱と、水素燃料電池から出る熱を井戸を介して、帯水層へ戻し地中に熱をためます。
冬期は、夏の間に地中へためておいた熱を井戸を介して取り出し、燃料電池からその時期に発生する熱とあわせて暖房へ利用します。これにより、暖房時の熱源として活用できエネルギーの高効率な利用と、温室効果ガスの削減が期待できます。

※2:水素燃料電池を発電のみに使用した場合との比較(実績値)

帯⽔層蓄熱システム(ATES)と⽔素技術の連携

 

従来(⽔素燃料電池をモノジェネ利⽤したとき)と本開発の⽐較

⽔素の「⾒える・感じる」化

また本システム開発は、複雑な技術を来館者が直感的に体感できるように設えていることも特徴です。建物内の公開スペース(インナーパーク)に水素燃料電池を設置し、冬季には廃熱でベンチの座面が温められます。訪れる人々がベンチに座ることで、水素燃料電池の廃熱がどうのように活用されているのかを直接感じることができます。
このような設えにより、「見えない技術」であった水素エネルギーが、「見える・感じる・実際につかえる技術」へと転換されました。
本開発は、身近な場で、年間を通じて水素の価値を最大化する実装モデルを建物として示す先導的事例として、全国から注目されています。
今回の取り組みは、帯水層蓄熱システム以外にも、地域の特性に応じた様々なアレンジが可能であり、オフィス、商業施設などさまざまな建物用途や地域への適用拡大が期待されます。

FEATURES03

当社保有技術「I.SEM®」を進化させ、季節単位のエネルギー需給のズレを水素で解決

共同住宅では、1日の中で太陽光発電のピークと、給湯や空調などのエネルギー需要のピークとの、時間単位のズレが大きく、太陽光発電などの再生可能エネルギーを効率的に活用・制御するためには、エネルギー需要の予測が重要な課題でした。そこで当社はこれまで独自のエメルギーマネジメントシステム「I.SEM®※3による予測制御を行っていました。

※3 I.SEM®:中小規模のビルでも先進的なエネルギーマネジメントを可能にするシステムで、電力の「見える化」や発電・需要予測、太陽光発電の自家消費制御、需要ピークの自動抑制など、複数の機能を組み合わせて効率的な運用を実現できる。

2025年3月に竣工した富山県黒部市の共同住宅「パッシブタウン第5街区」では、従来の時間単位のズレの課題に加え、積雪地域に特有の太陽光発電量が夏に多く冬に少ないという季節単位のズレ(需要のばらつき)が新たな課題となりました。この課題を解決するため、水素を活用した水素連携版I.SEM®を新たに開発しました。
これは、余剰電力を最大限に活用するエネルギーマネジメントシステムで、従来のI.SEMと水素による「シーズンシフト制御」を組み合わせたシステムです。

パッシブタウン第5街区

開発した「水素連携版I.SEM®

再エネ活用イメージ

水素を使ったシーズンシフト制御とは、夏に太陽光発電で生まれた余剰電力を水素として長期間保管し、冬に純水素型燃料電池を使って電気と温水に変えて活用するというものです。水素を用いることで季節ごとのエネルギー需給のズレを解消することができ、従来の蓄電池より効率化を図ることができます。また、水素貯蔵を高圧ガス状態ではなく、金属水素化物の形で吸蔵合金とすることで住居専用地域にも安全にコンパクトかつ日本最大級の大容量の貯蔵※4を可能としました。
このシステムの導入により、蓄電池、電気自動車、ヒートポンプなどのさまざまなエネルギー源を水素を使ったシステムと一体で制御することで、それぞれの強みを活かし、エネルギーシステム全体の性能を最大限に引き出すことが可能です。これにより、従来に比べ高い年間電力自給率を達成できる「エネルギー自給システムの実現」を目指しています。

※4:研究・実証施設などを除いた実運用建物では日本最大級の水素貯蔵量となる2,700N㎥を貯蔵します。

年間のエネルギーフロー

水素システム

 

吸蔵合金の外観
(日本製鋼所M&E㈱)