森と街をつなげる構造デザイン
構造設計|エア・ウォーターの森
FEATURES01
自然環境の再生をテーマにした
新たな耐火木造建築の取り組み
北海道の社会課題解決に向けて新たな事業創出を目指す、産学官連携によるオープンイノベーション施設です。本施設の建設計画においては、北海道の豊富な森林資源を活用し、自然環境を再生しながら森と街をつなぐ活動の実践が大きなテーマでした。
道内の人工林が本格的な伐採期を迎えるなか、道内建材需要に対する道産材自給率はわずか20%程度で、道産木利活用による森林循環の推進が地域社会の課題となっています。
そこで本計画では中規模以上の非住宅建築分野における木造化推進を目指し、全ての木部材に道産カラマツの活用が可能で、イノベーション施設にふさわしい今までにない新規性の高い木造架構システムの考案が構造設計者に求められました。
耐火性能が必要となる中大規模木造の従来の構造計画においては、木造部分は鉛直力のみを支持するものとし、地震時水平力は建物コア廻りなどに配置した鉄筋コンクリート造や鉄骨造部分で負担するハイブリッド木造がほとんどです。本計画では従来の発想の逆転から木造部分が耐震構造の主役となるハイブリッド木造を追求して、圧縮力に強い木の材料特性を最大限に生かすことで木造架構が合理的に地震時水平力を負担できる新たな中規模耐火木造の実現を目指しました。
FEATURES02
耐火集成材を主要耐震要素とした
日本初の木造外殻構造
耐火性能が求められる一定規模以上の木造建築の架構計画において、柱梁接合部を剛接合とした木造ラーメン架構のみで耐震構造として必要な性能を満足させることは、技術的に困難であるという課題があります。
そこで本計画では、耐火集成材(燃エンウッド®)の柱を上下ピン接合(鋼板挿入型ドリフトピン接合)のまま全て斜めに配置することで木造架構部分を主要な耐震フレームとした日本初の新たな木造外殻構造を考案しました。
燃エンウッド斜め柱は常時の建物鉛直荷重を支持しつつ、地震時においてはブレース効果により圧縮抵抗し、必要な建物剛性と耐震性能を確保しています。また木柱接合部に過大な引張力を生じさせないために木造架構を編み込むように引張抵抗部材であるテンションロッドを組み合わせることで架構全体の荷重変形性能を向上させるとともに、施工性に優れたシンプルな接合部ディテールを実現しています。
また当社技術研究所と共に構造実験を行うことで燃エンウッド斜め柱とテンションロッドを組み合わせた架構の荷重変形性能を検証し、適切な設計クライテリアを設定しました。
FEATURES03
施工合理性を追求した仕口部ディテール
燃エンウッド斜め柱が集合する仕口部(材の交点)については、鉄骨部材による構成とし、木部材に生じる圧縮力は直接取合う鉄骨ベースプレート面を介することで、また引張力は鋼板挿入型ドリフトピン接合部を介することで仕口部鉄骨へ応力を伝達させるシンプルな機構としています。さらに仕口部をコンクリートで被覆することで軸剛性を高め、仕口部の耐火性能を確保しています。
前例のない燃エンウッド斜め柱の建方を合理的・効率的に行うために、構造性能や耐火性能だけではなく施工性に配慮した仕口部のディテールが求められました。そこで仕口部をプレキャスト(PCa)化し、建方精度管理がしやすく、構造性能上問題とならないPCa分割位置の検討を行い、メインフレームを5パターンの地組ユニットの構成としました。地組ユニット同士は鉄骨部分を現場溶接することで建方精度の誤差を吸収できる計画としました。PCa化地組ユニット工法を採用することで約25%の工期短縮を実現できました。
FEATURES04
構造材への道産材100%利用による
森林の持続可能性向上への寄与
柱だけではなく梁にも木を利用し、9.6mのロングスパンを燃エンウッド梁で構成しています。柱および梁の構造材で576㎥(炭素貯蔵量459t-CO2相当)の木材を利用しています。材料調達の川上段階から地域生産者や製材加工業者などの北海道林業ネットワークの協力を得て全て道産カラマツ材で実現しました。
道産カラマツは本州カラマツと比較して要求性能を満足するラミナ材の出現率※1に関するデータの蓄積が乏しかったため、木材調達の効率化が課題でした。そこで本計画では製材前の丸太の段階において、打撃試験を実施し、ヤング率の高い丸太を選抜することで、KD材※2に製材した際の製造歩留まりの改善を実現し、結果として今後の道産カラマツの利活用に役立つ強度出現率に関する貴重なデータ蓄積にも貢献することができました。
また資源循環時代のサーキュラーエコノミーの思想から、構造材に利用した木材の端材をサイン・床目地・棚板に二次利用するリサイクル・ダウンサイクルを通じて、北海道の森と木材の循環システムの構築にも挑戦しています。

金田 崇興

藤田 進

山崎 僚平

中澤 秀太